世界の座標を再考させる、ダムタイプの凱旋展が開催中。
〈アーティゾン美術館〉で開催されているダムタイプの個展『2022: remap』は、昨年開かれた『第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』の日本館展示の帰国展。ヴェネチアでの展示を再構築したものだ。
この作品の構想の根底には、プロジェクトメンバーの高谷史郎が坂本龍一らと訪れた、京都・大徳寺の塔頭・真珠庵の茶室での経験がある。もう10年ほど前のことだが、高谷はそのときのことを鮮やかに覚えているという。
「茶室の中に入ったら突然大雨が降ってきたんです。障子や漆喰を通じて、雨の音が聞こえてきた。外の景色が見えない分、想像力がかき立てられて、洪水の中にいるようでした。ほんの何分かだったはずですが、何時間にも感じられたのを覚えています」(高谷)
帰国展だが作品はヴェネチアと同じではない。展示室内には入れ子のように、斜めになった四角形の部屋がある。これは吉阪隆正が設計した日本館を再現したものだ。再現された日本館は方位をヴェネチアでのものに合わせてある。
再現された日本館の壁にはテキストが浮かび上がる。1850年代のアメリカの地理の教科書から、「海とは何ですか?」「国はいくつありますか?」といった質問を抜粋したものだ。元の教科書には解答が記されているが、ここでは問いのみが提示される。「海とは」という問いは簡単に見えて答えるのは難しい。国を巡る質問も同様だ。
“日本館”の外部、ヴェネチアの会場では公園にあたる空間には、レコードプレイヤーが並ぶ。これは2022年にミュンヘンで開かれた『ダムタイプ展』で展示された、坂本龍一ディレクションによるインスタレーション《Playback》をもとにしたものだ。〈アーティゾン美術館〉での展示はこのようにヴェネチアで展示されたもの以外の作品も組み合わせられて、ダムタイプのこれまでの軌跡を俯瞰できるようにもなっている。