中原中也の詩集、ウクライナで反響「信じられないほど美しい」…日本避難の女性が翻訳
ヨジコワさんは、ウクライナ南部ヘルソン州のカホフカ市出身。キーウの大学、大学院を修了後、現地で日本語を個人指導していたが、ロシアによる侵略が始まったことを受け、隣国のポーランドを経て2022年10月に日本に避難した。
中也ら文豪が登場する人気漫画で、アニメ化もされた「文豪ストレイドッグス」をきっかけに、大学、大学院で中也の詩を研究してきたヨジコワさん。来日後、ウクライナ時代の友人ら5人でアジアの文学やマンガを紹介する出版社「BIMBA」を設立し、最初の刊行物として中也の詩を選んだ。
詩集には、〈幾時代かがありまして/茶色い戦争ありました〉の書き出しで、不穏な時代の空気が表現される「サーカス」をはじめ、喪失や悲哀がうたわれる「汚れつちまつた悲しみに……」「帰郷」など代表的な30編を収録した。
〈ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん〉(「サーカス」より)といった中也独特のオノマトペ表現は、「言い換えることは難しい」として、そのままの読み方で翻訳したという。
昨年12月に500部を刊行し、インターネットを通じて販売した。ウクライナの人々を中心に届き、4月には完売した。SNSでは、「信じられないほど美しい詩」「憧れの詩人の作品にようやく浸ることができた」などの反応があったほか、詩集を朗読したり、詩のイメージを写真に撮ったりする投稿も相次いだという。
「ウクライナで日本文学と言えば村上春樹が突出して有名だが、中也の詩は訳されてこなかった」とヨジコワさん。「ウクライナは過酷な状況だが、中也の詩の言葉は、現実と異なる世界に私たちをいざなってくれる。そのことが読者の心の支えになってくれているならばうれしい」と話している。