光熱費高騰で東京芸大が「電気代を稼ぐコンサート」開催へ さだまさしさん、箭内道彦さんが企画
■コンサート名はさださんが考案
コンサートのタイトルは、「~まさしと道彦の部屋~ 電気代を稼ぐコンサート LIGHT FOR ARTS!!」。一般公開の特別講座として、東京芸大の奏楽堂(東京都台東区)で開かれる。さださんは同大社会連携センター客員教授、箭内さんは美術学部デザイン科教授を務めており、コンサートの企画、プロデュースを担当。2人のほかに、前学長でバイオリニストの澤和樹さん、落語家の立川談春さん、美術学部デザイン科「映像論」講師でヒップホップグループ、RHYMESTER の Mummy-D さん、シンガーソングライターで、さださんとフォークデュオ「グレープ」を組む吉田政美さんらがスペシャルゲストとして参加する。
「電気代を稼ぐコンサート」という公演名はさださんが考え、箭内さんが賛同して決まった。必要経費を差し引いた収益の数百万円を電気代に充当する計画だ。
■「学生が安心して学ぶ場を」
箭内さんは、昨年11月に行われた澤前学長の退任記念公演の合間のトーク(MC)で、東京芸大の財政を圧迫する電気代高騰が話題になったとし、「終演後、さださんが僕に、自分にできることで芸大の力になりたいとおっしゃってくださり、それがきっかけでこのコンサートを開くことになった」と明かした。
箭内さんによると、コンサートは出演者やスタッフの協力を得て最小限の経費で運営するものの、「観客に質の高い公演を届けることが芸術の責務と考えている」とアピール。当日の公演内容は「学生有志も登壇して、他では観ることのできない、芸大ならではのコンサートになる」と自信を見せた。
また、「このコンサートが、一話完結でなく、東京芸大からの発信となり、寄付の増加などにつながり、芸術を志す学生たちが安心して学ぶ場を維持できる小さなきっかけになることができたなら幸いです」と期待し、「この国と社会における芸術文化にもっと光を、そう強く思っています」と訴えた。
■運営費削減、光熱費高騰…
東京芸大は日本で唯一の国立総合芸術大学だが、文部科学省から支給される「運営費交付金」は減少の一途を辿っている。令和元年から運営費交付金は成果を中心とした実施状況に基づく配分となり、「選択と集中」も進む。さらに昨今は光熱費が高騰し、大学の経営圧迫が懸念されている。同大の総務課によると、電気代の高騰や電力供給事業者の倒産で、当初、年間約1億2700万円と見込んでいた令和4年度の電気料金は3億6400万円程度に膨らむ見込みという。
先月には、光熱費高騰などを発端とする経費節減のため、音楽学部の練習室のピアノを一部撤去したことがSNS上で物議を醸した。同大の総務課は、適正台数の見直しで「経年劣化が進んでいた5台を撤去した」とし、「その分の調律費年間約12万円は削減される」と明かした。経費削減の取り組みについては、「学生の教育研究活動や練習活動を第一に考え、直接影響を及ぼさないように努めている」としている。
■「学生のための協力うれしい」
コンサートの開催について、大学院映像研究科の男子学生(30)は「学生のために協力してくれてうれしい」と歓迎している。一方、大学内で行われている経費削減については、「電気をこまめに消すなどといった節約は当たり前のことだと思っていたが、ピアノの撤去については、芸術分野の縮小が始まっているのかと感じて、ショックだった」と話す。今後、コストカットが進んで研究活動に影響が及ぶことを懸念し、「科学などの発展が優先されがちだが、人の心を潤す芸術にも目を向けてほしい」と訴えた。
光熱費の高騰は学生の生活にも大きな影響を与えており、美術学部の男子学生(25)は、「制作に打ち込むため、アルバイトは多くできない。生活が厳しい中で光熱費の高騰は痛手。奨学金を借りて工面しているが、今後に不安がある」と語った。
「~まさしと道彦の部屋~ 電気代を稼ぐコンサート LIGHT FOR ARTS!!」は、8日からチケットを販売しており、入場料は9000円(全席指定・税込)、車椅子席は8100円(同伴者1名まで同額)。チケットは24日正午時点で完売しているチケットセンターもあるが、一部のプレイガイドなどで若干残席がある。
コンサート当日には、美術学部絵画科油画専攻の学生によるライブペインティングや、音楽学部器楽科バイオリン専攻の学生の独奏、コンサートのポスターを制作した美術学部デザイン科の学生の授業や作品の紹介なども予定している。(本江希望)