運命はかない公共空間芸術「心にとどめて」 20年ぶり陶壁画公開
中島さんによると、作者は東京都狛江市在住の武蔵野美大名誉教授、田中栄作さん(89)。木彫、ブロンズなど彫塑が専門の現代美術家だが、80年代には馬頭町(現那珂川町)の伝統工芸「小砂(こいさご)焼」の陶板を使った壁画も手掛けた。田中さんは「当時は全国的に『陶器を建材に』という動きがあり、小砂焼の東山窯(とうざんがま)からの依頼で県内各地で壁画を制作した。北郷の作品もその一つ」と振り返る。
作品は、横6メートル、縦2・6メートル。北郷地区のシンボルでもある名勝「行道山」がモチーフで、巨大な岸壁やそびえる剣ケ峰、葛飾北斎も描いた浄因寺の石段や清心亭などを大胆にデフォルメした。絵付けした陶板を岩や森などパーツごとの輪郭線に沿って切り分け、ジグソーパズルのように再構成して壁画にした。田中さんは「久しぶりでも日が当たるこの作品は幸運。作家としてもうれしい」と公開を歓迎している。
企画した中島さんは「今年閉館した足利市民会館にはパリでも活躍した洋画家、川島理一郎デザインの緞帳やモザイク画があったが、保存されることなく取り壊された。少なからずショックで、改めて地元のパブリックアートを見直してみた」と狙いを話した。
同市の考古学者、丸山瓦全(1874~1951年)が浄因寺に寄贈した北斎の錦絵「足利行道山くものかけはし」なども同時展示する。午前9時~午後4時。入場無料。