囲碁の一力新棋聖 3度目の正直で井山に2日制対局勝利
「序盤から(考慮)時間を使う傾向が強かったが、残り時間が少なくなった後半にミスが出やすくなる。そこを改善しながらやっていきたい」と話していた一力は第7局、井山棋聖に比べ時間を多く持ったまま進行。優位に立つと、落ち着いてリードを広げていった。
13歳でプロ入りしたときから、将来を嘱望されていた。若手を対象とした棋戦では優勝の実績を重ねたが、七大タイトルを手に入れるまでは10年を要した。8歳上の井山に、どうしても勝てなかったのだ。
一力が初めて七大タイトルに挑んだのは、28年の第42期天元戦で当時、6冠を保持していた井山が相手。これに敗れると翌29年の天元戦や2度の王座戦、そして棋聖戦の計5度、すべて井山の前に敗れ去った。悔しさや情けなさから終局後、涙ぐむこともあった。
プロ10年目の令和2年、碁聖戦で羽根直樹九段に3連勝のストレート勝ちで、念願の七大タイトルの一つを奪取した。すると同年12月に決着した天元戦では、それまでさんざん苦しめられてきた井山をフルセットの末3勝2敗で破り天元も奪取し、2冠保持者になった。
しかし頂点に立てば狙われるのが、勝負の世界の常。初防衛を目指した昨年の碁聖戦、挑戦者の立場で臨んだ名人戦でいずれも井山相手にフルセットを戦い、敗れた。そして天元の防衛にも失敗と、ふがいない1年になってしまった。
「井山さんに優勢の碁を負けると、ひきずることがあった。負けても意識せず、次の対局に臨むようにしたい」と話す一力は、今期の棋聖戦七番勝負第1局に勝利すると、3勝1敗で奪取に迫った。井山の猛攻にあい、〝逆王手〟をかけられたが、見事に最終第7局に勝利。精神面で強くなったところをみせた。(伊藤洋一)