ガストロノミーな韓国料理を東大前の〈ビストロ ジョンジ〉で|寺尾妙子のNEWSなレストラン
今、ソウルでは韓国料理をベースにヨーロッパの技法を取り入れた店が急増し、世界のフーディーズから注目を浴びている。そんなモダン・コリアンの新店が東京にも誕生した。韓国・釜山出身のオーナーシェフ、キム・スジンは語る。
「日本では唐辛子で真っ赤で、チーズがたくさん入っているスタイルが流行していますが、そういう料理とは違う、私の好きな韓国料理を日本で紹介したくて店を出しました。数種類とっている出汁はもちろん、韓国醤油や味噌、コチュジャンなどの調味料も可能な限り手作りしています。もちろん、添加物は入っていません」
スジンの経歴も独特だ。結婚、出産後に日本の調理師学校で日本料理からフランス料理、イタリア料理の基礎を、韓国では重要文化財第38号朝鮮宮廷料理人(日本でいう人間国宝)の韓福麗(ハン・ボクリョ)から宮中料理を学び、釜山でワインレストランを経営した後、東京で料理を教えていたという。
昼5千円~、夜1万円のコースには、スジンのこれまでの経験が存分に生かされている。一品目は必ず韓国風のお粥から。そうかと思えば、コチュジャンで和えるコハダは日本料理風の造りに引き、鯖のひと皿に添えたソースにはフレンチの魚の出汁をとる技法を応用。また、和牛の一品はエゴマの葉でアルゼンチンのチミチュリソースをアレンジして添えるなど、クリエイティブな試みがあちこちに見られるのだ。
エッジを効かせながらも全体的にやさしい味わいなのは、スジンが母から受け継いだエッセンスも入っているからだろう。
食事の終盤にはナムルの炊き込みごはんが待っている。キムチなど自家製の漬物と味噌仕立てのスープは、まさに韓国版おふくろの味。どの一品も、ひと口食べれば、手をかけ、丁寧に作られたものだとわかる。韓国餅菓子のデザートまで、洗練と素朴さが同居するテイストがなんとも魅力的だ。