現代アート市場が活況 ウクライナ情勢も影響
◆敷居低い百貨店
米ポップアート界の巨匠、アンディ・ウォーホルによるマリリン・モンローのオフセットは275万円、大阪府出身の彫刻家、名和晃平さんのシルクスクリーンは165万円、路上芸術家バンクシーの作品価格は非公表-。
大丸心斎橋店(大阪市中央区)が今年1月に開いた現代アートの展示即売イベント「ART SHINSAIBASHI」。同店の同様のイベントでは過去最大規模だったといい、世界的に知られる大物アーティストから気鋭の若手らの作品約300点をそろえ、多くの来場者を集めた。
大丸で30年以上、美術売り場を担当する阪東広文氏は「心斎橋店では美術品の売り上げのうち、現代アートが約6割を占めるようになった。欧米ではアートを購入することは社会的にステータスが高い行為とされ、世界的に市場は拡大を続けている」と説明する。
一般にアートを購入する場合の入り口は、街中のギャラリーか百貨店の美術品売り場となることが多いとされる。百貨店は初心者にも敷居が低いという強みがあり、各店は近年のアートへの関心の高まりを受けて販売体制を強化。阪急うめだ本店(同市北区)も5月5~9日、「北斎と現代アート」と題した大規模イベントを開催する。
◆市場規模3510億円
世界のアート市場は絶好調だ。美術品市場調査会社アートプライスによると、現代アートの市場規模は2021年(20年7月~21年6月)は27億ドル(約3510億円)で、00年の1億300万ドル(約134億円)から約20倍に大きく膨らんだ。08年の世界金融危機など市場の熱が冷めた時期もあったが、ほぼ右肩上がりで推移している。
美術品全体の取引に占めるシェアも00年ごろの3%から、21年は23%まで成長。同年にオークションで落札された作品は約10万2千点、取引された作家は約3万4600人でいずれも過去最多だった。活況な市場を後押しするのが、オンライン取引の進展と、ブロックチェーン技術で作品が本物であることを証明する「NFT」を活用したアートの登場だという。
21年のオークションでの売り上げに占める国別の割合は、首位の中国が40%で、米国32%、英国16%と続いた。日本は「その他8%」の中に入り、割合は低い。一般社団法人アート東京によると、国内の現代アートの市場規模は令和2年が373億円、3年が394億円だった。
◆インフレリスク回避
ただ、近年は衣料品通販大手ZOZOの創業者、前沢友作氏が米国人画家ジャンミシェル・バスキアの絵画を超高額で落札したことが注目されたように、日本人の間でも30~40代の富裕層を中心に現代アートを求める動きが顕著になっているという。
こうした層が関心を高めている理由について、岩井コスモ証券の饗場(あいば)大介シニアアナリストは「富裕層にカネ余りの状況があり、従来の株式以外にもゴールドやゴルフ会員権など実物資産への投資が進んでいる」と指摘。現代アートもそうした動きの一つだとし、「従来の美術品と違って美術館やコレクターなどの所有者が固まっていないものも多く、市場に出やすいこともあり投資が進んでいるのではないか」と話す。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻という有事でもあり、インフレのリスクを避けるため投資マネーが実物資産に向きやすい状況だという。
一方で、大丸の阪東氏によると、購入動機として「投資・運用目的」を挙げているのは全体の2%で、1千万円を超えるような高額商品では8%まで上がるという。ただし、購入の主目的にはなっていないという。
阪東氏は「目で見て、脳で見て、作品が投げかける問いに考えをめぐらせるのが現代アートの本質だ。30年前にはバブル経済で日本人が世界でアートを買い求める動きもあったが『アートバブル』の崩壊も経験している。現代アートは株式などと違って完全に投資に向くものではない」と警鐘を鳴らしている。(井上浩平)