獣医学と仏教つなぐエッセー集 浄土真宗の興正派次期門主が出版
真宗興正派は興正寺(京都市下京区)を本山とし、寺院は全国に約460、門徒は約3万6000人を数える。門主は世襲で受け継がれ、真慶さんは現在の華園真暢(しんちょう)門主の長女。2017年4月に次期門主である「嗣法(しほう)」に就任した。門主に就任すれば、女性としては同派では南北朝時代以来2人目という。
高校卒業後、日本獣医生命科学大(東京都)に進学した。「幼いころから動物が好きで。お寺の境内にも野良猫やタヌキがいましたし、動物園や水族館に連れて行ってもらって興味を持ちました」
大学在学中は「あまり仏教のことは考えなかった」というが、京都に戻り気づいたことをエッセーにまとめた。例えばどんな動物も、さまざまな臓器が互いに助け合うことで生きていること。自然界そのものも食物連鎖の循環によって絶妙なバランスの上に成り立っていること。命の連環は、仏教が伝える大切なメッセージでもある。
大学3年の時の忘れられないエピソードも盛り込んだ。実習で食肉処理場を訪れた経験だ。選択制で、8割の学生は行かなかったが、あえて希望した。「こんなことがないと一生そういう場を見ないかもしれないと思って」。牛たちが必死に抵抗する姿や、失血死させられる様子を間近に目にした。「すべての生きものは、いろいろな命の犠牲の上に成り立っている」。自身も、多くの実験動物を犠牲に卒業論文を仕上げた。仏教者が守るべき基本的な戒めには「不殺生戒」があるが、それがどれだけ難しいことか痛感した。「自他ともに傷つけながら生きているという自覚を持ち、自分の命を支えてくれているものに心を寄せることが大切なのだと思います」
しかし、ついつい「自分一人で生きている」と思いがちな昨今の世の中だ。それは仏教界にも原因の一端があると指摘する。「多くの方がお寺や僧侶と関わりを持ち、こうしたお話を聞いてもらう関係性がもっと築けたらいいのかなと思う」。同世代の友人たちからは「僧侶ってどんな仕事をしているの?」とよく聞かれるという。「若い世代はお寺の門をくぐること自体があまりない。でも人にはそれぞれ興味を持っていることは必ずあるので、お寺側がもっと『入り口』を増やした方がいいのではないか」。本書が、そんな入り口の一つになることを期待する。
動物に深く関わってきたからこそ、問題提起したいことがあるという。「ペット葬」だ。日本仏教では伝統的に、動物を人間より低い「畜生」という存在と捉え、葬儀やお墓に関しても同等には扱えないという考えも根強い。自身も、保護犬だった白毛の「ハル」、野良の母猫に育児放棄されていた「しらたま」などを飼う。「『ペットも家族』と言われる時代。あくまで私の理想ですが、何かお寺や僧侶としてできることはないのか、今一度考えていきたいと思っています」と力を込める。
取材の日にも着用していた輪袈裟(わげさ)には、象や虎などの動物があしらわれている。宗派の僧侶たちからの贈り物だという。「動物柄をリクエストしました。お気に入りです」とほほ笑んだ。【花澤茂人】