【新連載】『リングにかけろ』初期は、人情味溢れた「正統派ボクシングマンガ」だった
菊は、外見も性格も前作『スケ番あらし』の主人公・荒神山麗(こうじんやまれい)そっくりの少女だった。本作でいえば香取石松に近い陽気なお笑い担当キャラでもあり、初期はヒロインとは思えないベタなギャグもたくさん飛ばしている。
翌年の1978年から始まった『うる星やつら』(高橋留美子)のラムちゃんに先駈けて、語尾に「ちゃ」がつく山口弁をしゃべっていたことはもっと注目されてもいい(ラムちゃんは仙台弁らしいが)。
本宮ひろ志は集英社文庫版第1巻の解説エッセイで次のように書いている。
<やがて、車田正美の『リングにかけろ』がジャンプ誌上に掲載された時、私は笑った。あの顔してこの絵を描くか。少女漫画のようにかわいい絵だ。まるでイメージが繋がらなかった。連載のはじめの頃は面白くもなく、まあ当たり前の漫画であった>
自称「木場、深川あたりのハンパ」だった車田をつかまえて、ここまで思い切ったことを言えるのは「ジャンプの大将」本宮ひろ志だけだろう。
後年、華麗かつファンタジックな絵で多くの少女を魅了したが、初期からどこか女性的な「かわいい絵」ではあった。前作『スケ番あらし』を描いていた頃など、かわいい絵柄、主人公が女子高生、作者の「正美」という名前から、女性マンガ家だと思っていた読者も少なくなかったという。