「請求内容がわからない」請求書の「衝撃的すぎる」中身…本当は隠しておきたい、「京都の花街」の秘密
京都では値段が前もって知らされないことも多く、往々にして不思議な「おねだん」設定に出くわす。京都を京都たらしめているゆえんともいえる、京都の 「おねだん」。それを知ることは、京都人の思考や人生観を知ることかもしれない。
数年前に、さる映画プロデューサーから「緊急の用件で折り返して欲しい」と留守電が入っていた。何事かと思って掛け直すと、「今晩、あるトップクラスの俳優さんが祇園のお茶屋さんに行くのだが、ご祝儀はいくら包めばいいのか教えて欲しい」とのこと。ポチ袋に包むご祝儀のおねだんがわからず、スターさんさえ右往左往してしまう。
こんなとき、無粋を承知で、「花街の料金表」があれば──。
よし、思い切って、自腹でお茶屋遊びをしてみよう。それで、おねだんは実際いくらだったのかをレポートすれば良いではないか。
というわけで、「花街で、自腹で遊んでみた!」企画を立てたのだが、この企画はいろんな方から「ちょっと難しいんちゃいますかね」と意見がついた。
先斗町の芸妓・亜弥さんは、「お茶屋によって、お客さんによって違いますからね。一概に料金表は作れません」。それでも、亜弥さんは面白い話を教えてくれて、「実はポチ袋のご祝儀はおいくらでもええんどす」。それはどういう意味? 「芸舞妓はご祝儀頂くと、お茶屋のおかあさんに報告しますから、その金額を引いた額が請求されると思います」。なんと、では総額は変わらないのか。「へえ、お茶屋によると思いますけど」。
上七軒のお茶屋・梅乃さんの中路裕子さんも、料金表作りは不可能であると言う。「やっぱり街によって、店によって違うと思いますし、その他いろんな条件でも違てきます」。
祇園に生まれ育った遠藤さんは、「一回行ってみただけだと、請求書を見ても、何にいくらかかったのかはわからないと思います」と。何にいくらかかったかわからない請求書が来る? 「なので、いっぺんお茶屋遊びしはって、その請求書を僕が見て解説することはできます」。なるほど。しかし、最後の決め台詞はみんな同じだ。「でも、それも人によってお茶屋によって違いますので、一概には言えません」。
お茶屋遊びに詳しいある方が、面白いことを教えてくれた。まずもって、お茶屋の料金は、「誰が紹介してくれたか」によってベース料金が決まり、それが生涯ついてまわるとのこと。
その方の場合、紹介者が芸事の家の方で、十代からお茶屋に出入りする人だった。つまり、十代ゆえの割引料金がベースとなっている方から紹介いただいたので、その方の料金も割引価格がベースとなる。濃い人脈に紹介いただければ、それだけお得ということなので、ここでも紹介者が大事になってくるというわけだ。
街、お茶屋、紹介者、お客──様々な要素が絡み合って違ってくる料金ゆえ、やはり「料金表」というのは無理か。しかも、請求書が送られて来ても、初心者には解読すらできないというのでは、この企画は不可能となる。
しかし、とにかくやってみないことには始まらない。
私は、ある晩、懇意にしているお茶屋遊び歴二十年のAさんに、素敵なお茶屋をご紹介いただき、ついに自腹でお茶屋遊びを敢行したのだった。以下、匿名を条件にレポート掲載を許可くださった。