ピアニスト、イリーナ・メジューエワが7月からスタートする「オールショパン演奏会シリーズ」曲目を自ら解説!
ショパンの生涯は短いですが、その中でも初期の作品群というのは、ロマン派の真っただ中の若い時期のものなので、いい意味で若々しく、希望が音として伝わってきます。後期になると、絶望とか諦観が色濃くなってきますから。
あともう一つ、ショパンにだんだんなくなっているのは、いい意味でのエンターテインメント性。初期のほうが圧倒的に前面に出ていると思います。中期・後期になると聴衆のことをあんまり考えなくなるというか、自分の世界になるんですね。そもそも、曲のタイトルに「ブリリアント」という語が出てくるのは初期しかない。そういう意味では初期の特徴を表すキーワードは「ブリリアント」=「華麗」かも知れません。
音楽的に言うと、後期に比べてポリフォニー的には薄い感じで、シンプル。「ノクターン」がわかりやすい例ですが、初期のものはメロディーと伴奏が別々で、誰が聞いてもメロディーが美しい。香るようなすばらしさで、しかもわかりやすい。だから人気もある。
晩年作の「ノクターン」は、メロディーは美しいけれど、ポリフォニーが増えて、まず普通の人にはついていけない世界になる。バッハみたいにポリフォニーが増えれば増えるほど、一般の人は苦手になる。いっぺんに4つの声部を聞くのは、やっぱり難しいですから。
ということで、初期のほうが一般の人が思っている、いわゆるショパンらしいメロディーの美しさを楽しめるのではないかと思います。