「アートは身近なもの」世界文化賞SANAAが造る風景に溶け込む愛しの建築(後編)
世界文化賞の授賞式の翌週、SANAAの妹島和世さんと西沢立衛さんの姿は、新香川県立体育館の建築現場にあった。
体育館は、香川県の鉄道のメインターミナル高松駅から海へと向かうところにできる。駅側から見ると背景には瀬戸内海、海側から見ると背景には讃岐山脈がそびえる、という立地である。
高さを低く抑えた曲線状の屋根は瀬戸内海に浮かぶ小鳥をイメージし、陸側から見ても海側から見ても、周辺の景色に溶け込むようなデザインになっている。
西沢:「瀬戸内海に面した敷地で、駅からすぐのところで、その周りに瀬戸内海とか、山とか、もともとある広場とかがあるので、そういうものと一緒になって何か大きな一つの公園というか、運動だったりイベントだったりが起こる、そういう場所になったらいいなと思っています」
メインアリーナはスポーツの国際大会やコンサートの会場にもなる1万人規模の広さだが、観客席上部に壁を作らず、交流ゾーンという下の部分と一体感があるのが、いかにもSANAAらしい。
西沢:「ドームって基本的に着地するもの、閉じるものですが、われわれは“抜け”を出しています」
妹島:「アリーナでくっつくけど、エントランスを入って体育館に入った瞬間に体育館と周りが一体となることを目指しています」
金沢21世紀美術館を“美術館は街”として作ったのと同じように、この新香川県立体育館はメインアリーナなど3つの施設が一つ屋根の下でつながり、さながら“体育館は街”と言ったところ。
中央には、海に抜けられる開放的な通路があり、人々が自由に歩き回ったり、くつろいだりできる。2024年度末の完成が楽しみだ。
世界に目を向けるとオーストラリアのシドニーでは、SANAAの新しい作品が完成し、今年12月3日に一般公開された。ニューサウスウェールズ州立美術館の新館である。
妹島:「ボタニカルガーデンの中に美術館があり、その上に首都高が走っていて、横に古い給油タンクが埋まっており、給油タンクと首都高の上に増築する、という難しい形の土地でした。各レベルに展示室を置いていって、順々に下りてくるときれいな海がどんどん近づいてきます。地形とか風景を楽しみながら場所を歩き回れるので、みんなに親しんでいただけるだろうな、と思っています」