タイの伝統工芸「ベンジャロン焼き」を日常使いに 日本人が現代風アレンジ
古き良きタイの伝統工芸に新しい風を吹き込み、技術と文化の継承を見据えて進化し続ける久巳さんのベンジャロン焼きとは、一体どんなものなのだろうか。話を聞いた。
ベンジャロン焼きとはアユタヤ王朝時代に中国から伝わった技法を用いたタイ伝統の陶磁器で、金彩やカラフルな色彩、細かいデザインなどを主な特徴とする。
「ベンジャロンは古代サンスクリット語で “5つの色彩の焼き物” という意味ですが、今では30色以上の色が開発されて、1色でも30色でもベンジャロンと呼ばれています」
久巳さんがタイに移り住んだのは、2001年。日本ではテレビやラジオ番組のリポーターなど声を使った仕事に打ち込んでいたが、29歳のときに過労で体調を崩し、30歳のときに療養のため単身でタイに渡った。タイ人の優しさと穏やかな空気に癒されて、いつのまにか病気は完治していた。
現地のラジオ局などに勤務しながら充実した日々を送る久巳さんであったが、タイ生活15年目のある日、自宅で趣味の絵を描いていて突然ひらめいた。
「大好きなクリムトの世界観をイメージして、金彩や鮮やかな多色を使った絵を描いていました。そのとき、絵がお土産店で見かけたベンジャロンによく似ているとハッとして……。『私がやりたいのはコレだ!』と雷に打たれたような衝撃がありました」
だが彼女が思い描く理想のベンジャロン焼きは、従来のものと大きく異なっていた。
「古典的なベンジャロンはもちろん素晴らしいのですが、私はその技術を活かして、より現代的で新しいアートを作ってみたくて。実現できそうな場所がどこにもなかったので、自分で店を始めようと思い至ったんです」
久巳さんはまず、ベンジャロン焼きが盛んなサムットサーコーン県の工房>に飛び込んで技術を習得。彼女の独創的な作品を目にしたタイ人の職人からは「こんなの初めて見た!」「真似していい?」と驚きの声が上がった。
思い立ってからわずか3か月後の2016年1月、ベンジャロン焼きのショップと絵付け体験ができる工房が一体になった「Stella Art Cafe」をオープンした。ベンジャロン焼きが学べると、在住者や旅行者を含めて国籍を問わず人気を集めている。