資本主義の「アンチテーゼ」、立川吉笑の落語家という生き方
今回紹介するのは、落語家の立川吉笑さん。お笑い芸人を一時期目指していたが、落語の魅力に惹かれて立川談笑の一番弟子に。2010年に入門し、二ツ目にスピード昇進した。新作落語を意欲的につくるかたわら、気鋭の若手学者らをゲストに迎えた『吉笑ゼミ。』も主宰する。さらには、2017年には落語家の春風亭昇々と瀧川鯉八、浪曲師の玉川太福の4人で創作話芸ユニット「ソーゾーシー」を結成。クラウドファンディングで資金を捻出し、全国ツアーを実施するなど、既存の落語家の枠を超えた活躍を続けている。
立川吉笑は、落語家の生き方とは「資本主義とは違うところにある」と語る。彼の落語家として、そして一人のクリエイターとしての生き方について伺った。
――演芸界で初めてクラウドファンディングでツアーを行ったそうですが、なぜ、落語家としてこのようなチャレンジを始めようと考えたのでしょうか。
前提として、そもそも落語自体がビジネスモデル的に非常に優れているところがあるんです。落語家は、伝統芸能というところがやっぱり大きいんです。徒弟制度が残っているので、上の者が下のものを食べさせる文化が残っています。大金もちはほぼいないけど、全員が普通か、少し貧しいかぐらいで暮らしていけるというのが落語界なんです。
たとえば、基本的にアルバイトせずに生活できる人が多い。お笑いや演劇、ミュージシャンといった、ほかの夢を追うような仕事は、基本的にアルバイトしながら売れるのを目指しますよね。その分、売れたらめちゃくちゃ莫大なお金を得られる可能性も少しだけどある。
自分の周りには、お笑いの友達やそういった仕事の知り合いがたくさんいますが、30歳を超えてくるとだいたいお金の問題でやめていく人が増えます。
そんななかで、自分は持続可能な状態をキープしつつ、その上でもちろんやりたいことに挑戦したい。そういうことを昔からずっと考えていたということが、まずあります。もちろん落語そのものも好きなんですが、そういう落語界の持続可能なところがすごくいいな、画期的だなと思っていました。
――大儲けしなくても、みんなが生きていけるという世界や考え方に惹かれていたんですね。
相互扶助というか、上の者が下の者に与えたり、一人勝ちしないという仕組みができているんです。
出演料の相場がざっくり決まっているのも一例です。自分の相場がだいたい決まっていて、安すぎる仕事は引き受けない。どれだけ休みが続いて生活が苦しい時も、相場より安い仕事のオファーが来た場合はもちろん行きたいけれども、行かない。安い値段で自分が受けてしまうと、業界全体の相場が下がっていってしまうからです。断って、むしろ自分よりも下のランクの後輩に回してあげる。そうすると、彼らにとっては普段の相場より少し割の良い仕事が回ってくることになる。逆に僕も、先輩方から自分の相場より割の良い仕事を紹介してもらうこともある。そういうふうに業界全体で相場の維持をしているんです。
個人商売とは言え、ひとり勝ち抜けじゃなくて、業界全体でやっているという気持ちがある。それは、この資本主義の世界の中で珍しいと思うんです。徒弟制で、一門の関係や、師匠と弟子の関係が根強くある。そういう独自の世界に成り立っているんです。