クリスマスに休戦…戦争の実話をもとに絵本制作 ウクライナの子供たちへ思いを寄せ「人の心伝えたい」【静岡発】
ロシアのウクライナ侵攻前から制作していたが、侵攻を知ってウクライナの子供たちの絵を描き足した。タイトルは『戦争をやめた人たち』。子供たちに何を伝えたかったのだろうか。
緑豊かな自然に囲まれた静岡県下田市加増野。この地域にまるで絵本に出てきそうな建物がある。絵本作家の住宅兼アトリエだ。
鈴木まもるさん(69)。東京都出身の鈴木さんは東京芸術大学を中退後、絵本作家の道へ進んた。
36年前に下田市に移り住み、絵本の制作を続けてきた。主に電車やバス、重機など子供が好きな乗り物を題材にした絵本を描いている。
絵本作家・鈴木まもるさん:
お子さんがなぜ絵本を好きかというと、自分がこれから生きていく上で、いろいろなものを感じたり、生きていくのにプラスになる事を感じるからだと思う。だから、お子さんにとって心の部分で必要なものが表現できればいいなと思っています
鳥の巣の研究家でもある鈴木さん。アトリエには大勢の人に見てもらおうと、世界中で集めてきたさまざまな鳥の巣が所狭しと飾られている。
鳥の巣の図鑑の執筆なども手掛けていて、取材した日は鳥の巣の絵を描いていた。
絵本作家・鈴木まもるさん:
アメリカの鳥の学者が鳥の巣に関わる論文を書くことになり、その表紙に絵を描いてほしいと頼まれたので
鈴木さんがこれまでに出版した絵本は200冊以上。そんな鈴木さんは2021年夏から、これまで描いてこなかった題材に挑戦したいと考えていた。その題材が「戦争」だ。
絵本作家・鈴木まもるさん:
戦争というのは、お子さんに限らず人間が生きていく中ですごく大きなもので、やはり平和な方が良いですよね。それを伝えたいという気持ちはずっとあって、ただどう表現したらいいかが自分の中になかった。戦争を扱った絵本はたくさんあり、多くが実際に体験された方が悲惨な経験を語るもの。それはそれで大切な事だと思う。ただ僕は戦後生まれなので戦争体験がないし、そういう形では描けない。何か違う形で(表現)できないかと、ずっと思っていました
人類が繰り返してきた戦争。絵本を通じて、どうしたら子供たちに理解してもらえるのか悩んでいた。悩んだ末にたどり着いたのが、ある実話だ。
絵本作家・鈴木まもるさん:
第一次世界大戦の時に本当にあった、クリスマスの日に起こったことです。調べたら、僕の中で一冊の絵本の世界になった。新しい、今までにない戦争を扱った絵本ができる気がして、絶対に描きたいと思った
イギリス軍とドイツ軍が交戦するさなか、ドイツ軍側から聞こえてきたのは「きよしこの夜」だった。言葉はわからないものの共通のメロディー。その日がクリスマスイブだと気づいたイギリス兵たちも、英語で同じ「きよしこの夜」を歌った。
すると翌日、武器を持たないドイツ兵がイギリス兵に歩み寄り、「メリークリスマス」と言って休戦し交流を深めたそうだ。
絵本作家・鈴木まもるさん:
夕方になるとそれぞれ塹壕(ざんごう)に帰って行く。これで戦争は終わったかというと、残念ながら終わらない。4年間続くのですが、皆でクリスマスをお祝いした後はイギリス軍もドイツ軍も鉄砲をわざと空に撃つのです。相手に当たらないように。大きな攻撃があると「明日大きな攻撃が計画されているから、気をつけてくれよ」と言って知らせてしまう。
鈴木さんは、感動したという実話を続けた。
絵本作家・鈴木まもるさん:
(クリスマスで)一緒に遊んだり話したり、歌ったり飲んだり食べたりして、国は違うけど相手も同じ人間だとわかったからだと思います。国同士のいがみ合いがあっても、人間としては同じだと。そういうことを知ってしまうと、鉄砲を(相手に)撃てなくなるわけですよね。同じ人間として、友達として。だから「戦争をやめた人たち」というタイトルにしました