離島苦境、コロナで観光客激減 人口減、海洋権益にも影響
■今年も客足鈍く
「観光以外に大きな産業がない以上、人が来ないと島が沈んでしまう」
東京・伊豆大島の大島町長、三辻利弘さん(66)はこう話す。
町によると、来島者数は平成29~令和元年、年間約24万人で推移しており、毎年の観光消費額は約40億円と、町の一般会計予算の2分の1近くに相当する。ところがコロナ禍で令和3年は約12万人とほぼ半減。平年であれば1~3月は島の名物のツバキを目当てに大勢のツアー客が押し寄せていたが、今年も客足は鈍く、平日は観光名所や目抜き通りでさえ人影が少ない。
三辻さんは「観光不振は漁業、農業、サービスと島のあらゆる産業に悪影響を及ぼす。一刻も早く観光客数を戻さなければ、島が成り立たなくなる」と焦りを隠さない。
■黒糖もピンチに
「コロナでどの島の製糖業者も経営が火の車になっている」と話すのは、沖縄県黒砂糖協同組合の西村真専務理事(63)だ。同県は黒糖の一大生産地で、与那国、波照間(はてるま)、西表(いりおもて)などの県内8島で国産黒糖の9割超のシェアを占める。
組合によると、黒糖は主に全国の観光地でまんじゅうなどの土産向け菓子類に加工されていたが、コロナ禍での旅行控えで需要が減少。そこにサトウキビの豊作が重なって供給過剰が生じ、昨年生産した黒糖約9千トンのうち3分の1以上が在庫となり、どの業者も赤字に陥っているという。
沖縄の離島では気候環境や輸送費用の関係で、作付面積の多くをサトウキビが占めており、島民の一定数が製糖関係の職に就いている。西村さんは「製糖業が立ち行かなくなれば雇用が失われ、若い人が島を出ていきかねない」と険しい表情を浮かべる。
■1割が無人島に
離島関係者の懸念の背景には、多くの離島で本土を超える速度で人口減少が進んでいるという事情がある。平成22~27年の離島地域の人口増減は9・3%減で、「人口減少が著しい」と定義される過疎地域(8・1%減)も上回っている。
国土交通省が発表した「国土の長期展望」中間とりまとめによると、離島振興が実施されている国内の離島約260のうち、令和32年には1割程度が無人になる可能性があるという。同省離島振興課の担当者は「無人化を防ぐべく、今後も支援策の拡充を検討していきたい」としている。
■海洋権益に支障
国内には領海や排他的経済水域(EEZ)の根拠となる「国境離島」が約500島あり、このうち約60島は人が住む有人島に数えられている。こうした島々で人口減少が進んだ場合、将来的に海洋権益保全に支障を来たしかねないとの懸念も浮上している。
「離島での暮らしは不便な面もあるが、生活を通して国土を守っているという自負がある」。国内最西端の沖縄県・与那国島に住む60代の農業の男性はそう力を込める。島の約150キロ北には中国船が領海侵入を繰り返す尖閣諸島があり、国境の最前線に位置する。
海洋安全保障に詳しい中京大の古川浩司教授(国際関係論)は、離島に人が住むことについて「その島が日本の領土であると示す明確な証であり、他国の侵略のハードルを上げる効果が見込める」と説明する。例えば尖閣諸島が無人島になったことにより中国、台湾の領有権主張を誘因した実例がある。
古川教授は海上保安庁などの公的機関のみで四方に広がる日本の海を警備するのは限界があり、「離島住民の協力なくして国境管理は難しい」と指摘。離島の人口維持は、日本の安全保障にとっても重要な意義があるとの見解を示した。(竹之内秀介)