歌うケリーバッグや無重量ダンス 遊び心あふれる「エルメスシアター」とは?
会場には6つのセットが設置されており、そこで繰り広げられるパフォーマンスのライブ映像が、上部に設置されたスクリーンに映し出されるという仕掛け。精巧なジオラマや小道具、照明、スモーク、そしてダンサーたちの演技が組み合わされ、カメラがその動きを捉えていく様は、まるで映画の制作現場のようだ。1幕ごとに観客が次のセットに移動する流れも、「次は何が起こるのか」という期待を掻き立てる。
2匹の馬のパペットが見せるトリックアートや、大小のバッグ「ケリー」が歌うコミカルなオペラなど、「エルメス」らしい遊び心あふれる構成に。このユニークな作品を生み出したのは、ジャコ・ヴァン・ドルマル(Jaco Van Dormael)。「神様メール」(2015年)などを代表作に持つベルギーの映画監督・演出家だが、オペラやバンド・デシネ(フランス語圏のコミック)、舞台公演など幅広い分野で才能を発揮している。ジャンルの垣根を超えたファンタジックな演出は、ドルマルの真骨頂とも言えよう。
また、軽やかな動きを振り付けたのは、ダンス・カンパニー「ローザス(Rosas)」の創立メンバーでもある振付家ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ(Michele Anne De Mey)。レザーを縫い合わせる手の繊細さや、カレの縁を丸める手のしなやかさなど、エルメスの職人の手しぐさをも彷彿とさせる。演じたのは、彼女が率いるコンテンポラリーダンスカンパニー「アストラガル(Astragales)」のメンバー。デジタル技術を巧みに取り入れ、宙に浮かび上がった恋人同士が無重力で踊るシーンなどを表現した。
エルメス一族の6代目であり、メゾンのアーティスティック・ディレクターを務めるピエール=アレクシィ・デュマ(Pierre-Alexis Dumas)が「世界中で日本の人たちが一番、エルメスの紡ぐ夢や手仕事の情熱を分かってくれる」と開催を後押ししたという、今回の演目。6月21日までの全公演は、予約開始からすぐにほぼ満枠となったほどの人気。体験した人の心を軽やかにしてくれる、夢のような舞台となった。