「The Original」で見つめ直すクリエイションの源泉。デザインに無頓着な時代に「立ち返る場所」とは
Original」が東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTでスタートした。
本展はすべての端緒となる「The
Original」をたどることで、そのエッセンスを浮かび上がらせると同時に、デザインの文脈とそれらを生み出したデザイナーのつながりも可視化するものだ。
会場内の2つのギャラリーには、本展ディレクター・土田貴宏、企画原案・深澤直人、企画協力・田代かおるの3人によって選定された、独創性あふれる約150点のプロダクトを展示。椅子をはじめとする家具から食器、玩具に至るまでが並び、それらに付随する写真やキャプションでは「The
Original」の背景となる考え方も紹介されている。
ギャラリー1には、20世紀半ばのイタリア製プロダクトが配置された小さな空間が2つ登場。デザインに密接である「家のすがた」を再現することで、生活寸法でそれらを体験することができる。
また、壁内の部屋は20世紀前半から現代までの多様なプロダクトで構成。一見落ち着いた組みあわせであるが、一点一点をよく見るとどれも個性が光るものばかりだ。個々が独創性を持ちながらも互いに共鳴しあい、居心地を保つことが可能であるのも「The
Original」の魅力とも言えるだろう。
メイン会場のギャラリー2には、約100点以上のプロダクトがゆるやかな関連性と時系列を有しながら展示されている。会場全体が温かみのある色で統一されているのも、生活空間のなかでデザインを意識できるよう調整されたものだ。会場パネルにはプロダクトの魅力や選定背景などが詳細に記載されているが、キャプションや写真が生き生きと配置されており、鑑賞者を退屈させない工夫が施されている点にも注目したい。
展示物のなかでもとくに鑑賞者の目を引くのは、入口から出口まで連なる椅子ではないだろうか。椅子は古代から現代に至るまで存在してきた「人が触れるプロダクト」の代表例。それゆえ歴代のデザイナーたちは、時代の影響を受けつつも試行錯誤を繰り返しながら設計を行ってきた。本展では時代とともにかたちを変化させてきた椅子から、デザイナー同士の時代を超えたつながりも発見することができるだろう。
本展では椅子以外にも、キッチン用品や生活に欠かせない家具が多数紹介されている。手にフィットするようかたちが設計されたペッパーミルは1874年に登場し、いまなお多くのバリエーションが開発されている。
斜めに自立し、くずが投げ込まれるのを待っているかのような「インアッテーザ」や、重力から解放されいまにも浮かび上がりそうな倉俣史朗のフロアランプは、プロダクトが意思を持っているかのようなユニークなデザインだ。
会場では現代を代表するデザインも紹介されている。サステナブルな社会が求められるなか登場したのは、クララ・フォン・ツヴァイベルクのリサイクル紙を利用したゴミ箱「ペーパー
ペーパー ビン」。美しいデザインのみならずゴミ箱自体も再利用できる点がポイントだ。
自身の母性を反映し制作されたという「ローリーポーリー」は、類を見ないふくよかなデザインの椅子だ。ソーシャルなつながりが増す現代において、個人的な心情を表した温かみを感じるかたちが印象深い。
「デザインのオリジナリティは体験することでわかる」という意図から、プロダクトを触ることができるエリアも用意されている。ここでは様々なドアハンドルを実際に握ることで、人と建築物を仲介するデザインの重要性に気がつくことができるだろう。ぜひ積極的に参加してみてほしい。
本展の開催に際し、深澤はデザインを通じて社会における課題を提示するともに、次のように期待を寄せた。「模倣やコピーが当たり前となってしまったデザインに無頓着なこの時代に、真似することができない優れたデザイン(=The
Original)を改めて取り上げ、立ち返る必要があるのではないか。その素晴らしさを知り、感動するとともに、オリジナルに嫉妬しながらも新たなオリジナルを生み出せるよう歯を食いしばろう」。
また土田は、21_21 DESIGN
SIGHT創立者であり、2022年に逝去した三宅一生にも触れながら本展のデザイン選定について以下のように語った。「本展で展示されているデザインの数々はその独創性や時代、地域のバランス、好奇心などを考慮するとともに、深澤さんや佐藤卓(館長、ディレクター)さんによって『一生さんなら何を選ぶか』という視点のもと選定されており、三宅一生さんのクリエイションも大きなインスピレーション源となっている。本展を機に『The
Original』に立ち返り、新たな『The Original』に挑んでほしい」。
なお本展プロジェクトメンバーは選定された展示品について「日本の『デザインミュージアム設立』の進展に資するものでありたい」と表明している。各所でデザインミュージアム設立の動きが見られるなか、どのようなプロセスや下準備を経て、国内における新たな価値を形成していくのだろうか。デザインミュージアムの動向については引き続き注目していきたい。