トーハクの国宝、全部見に行こう!|青野尚子の今週末見るべきアート
〈東京国立博物館〉(愛称:トーハク)は日本で最初に生まれたミュージアム。その創立150周年の節目に開かれているのが「東京国立博物館創立150年記念 特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』」だ。
現在、同館の収蔵品は約12万件、そのうち国宝は89件ある。2022年10月現在で国宝に指定されている美術工芸品は902件なので、そのうちのおよそ1割が同館に収蔵されていることになる。「国宝展」では展示替え・巻き替えをしながら所蔵する89件の国宝をすべて見せる。これは創立150年の歴史で初めてのことだ。
国宝の制度は1897年(明治10年)に制定された「古社寺保存法」がもとになっている。この法律は古社寺の寺宝を廃仏毀釈などから保護するのが目的だった。1929年(昭和4年)には国宝の範囲を個人所有の美術工芸品などに広げた「国宝保存法」が制定される。さらに文化財の海外流出を防ぐため、1933年(昭和8年)に「重要美術品等ノ保存ニ関スル法律」が定められた。現在の国宝は1949年(昭和24年)の法隆寺金堂の火災がきっかけとなり、翌年に制定された「文化財保護法」に基づいて決められている。
国宝といっても収蔵品なのだからいつでも見られるだろう、と思うかもしれないが、日本美術はそうはいかない。とくに絵画は繊細でいたみやすいため、「展示は○年ごとに○日まで」といった厳しい制限がある。〈東京国立博物館〉では限られた展示スケジュールを細かく調整し、この日に備えてきた。次にこれだけの数の国宝が一挙に集合するのは150年後かもしれない、それほど貴重な機会なのだ。
展示は2部構成、第1部が “国宝づくし”、第2部は〈東京国立博物館〉の150年を振り返るものだ。第1部は絵画から始まる。ここで注目したいのは空白部分がある《花下遊楽図屛風》だ。右隻の二扇が関東大震災で失われてしまい、モノクロ写真だけが残された。花見の宴を描いたこの屛風では人々が楽しそうに舞い踊っている。当時の最新ファッションをまとい、桜や他の人々を見やる視線がなまめかしい。