家族がいてもいなくても 原っぱに起きた奇跡
そう、シニア人形劇チームによる人形劇の公演である。
2週間前から、原っぱに舞台を作り、練習をしてきたけれど、お天気が心配。
大方の予想が雨、雨、雨…。
おまけに、自分も心配。
実は、この人形劇はヘビやカエル、カマドウマやジョロウグモなどのキラワレモノの虫たちと、10年前に都会から高齢者住宅にやってきた81歳のうりさんのお話なのだ。
このうりさんは、原っぱに飛び込んで小さな人形になる。けれど、その前の生身のうりさん役が練習初回に降りてしまった。
で、責任上、私が代役をやることになっていたのだ。
登場はわずか。でも、私は白髪のかつらをつけ、首に赤いネッカチーフを巻き、天真爛漫な生身の81歳を演じねばならない。
それがうまくできるか心配だが、とにもかくにも、とりあえずは雨が心配だった。
どうぞ降りませんように、と奇跡が起こるのを祈っていた。
それは、みんなも同じ。
ヘビ役の彼女のハウスの窓には、ピンクと青と白のテルテル坊主がぶら下がっていたし。
そして、迎えたこの日、予報に反し、なんとなんと空が晴れ渡ったのだった。
涼風の渡る原っぱには、入居者仲間ばかりか、思いがけないほどのお客さんが50人以上もやってきた。
東京からも、福島からも…。
原っぱには、コーヒーショップが開店し、売店にはみんなの手作り作品が陳列された。
知人の居酒屋も登場。ビールや餃子、モツ煮込みも売られた。
そして、翌日の日曜日。
テレビの予報は、やっぱりこの日も雨。前日の夜中は豪雨で、窓を打つ雨の音で目覚めた。
空を仰げば厚い雲に覆われていて、雨は正午を過ぎても降り続いた。
でも、また奇跡が起きた。
午後1時に雨がぴたりとやんだ。上演時間の午後3時までには、空が次第に明るんでいった。
原っぱに行くと、すでに舞台は、担当のウメちゃんの手で、新しい生き生きとした野の花が、活けこまれていた。
さらに20人ほどの観客もやってきた。かくして、2日間にわたるシニアチームの原っぱ人形劇の公演は、「ブラボー」などと言われ、好評のうちに終了した。
原っぱでの打ち上げのビールは、この上もなくおいしかった。(ノンフィクション作家 久田恵)