笑い、涙、ご当地グルメあり 内陸県の水産高舞台の青春小説刊行
小説の舞台は栃木県立那珂川水産高校(ナカスイ)。村崎さんは「海なし県で水産科がある高校の青春モノがあったら面白いだろうなと思いました」と馬頭高をモデルとしたきっかけを振り返る。以前、栃木の魚についてブログに書いたことがあり、その多くが那珂川町で食べられることを知っていたことも影響したという。
主人公の鈴木さくらは「普通」である自分から抜け出したくて、宇都宮市の中学からナカスイに進学した。だが、ナカスイには想像以上にキャラが濃い同級生ばかり。アニメオタクのギャル、魚知識が豊富な陰キャ、水産官僚の志望者――。先生は鮎をこよなく愛していて、専門的な授業内容にもついていけない。青春を謳歌(おうか)するつもりだったさくらは早々に落ち込み、「転校」すら覚悟する。だが全国の高校生が地元の食材を用いた料理を競う「ご当地おいしい!甲子園」を目指すことで変化していく。
馬頭高に取材を重ねた村崎さんは「オンリーワンを目指して、みなさん勉強に来てるんだなと思いました。一生ものの青春ですよね。もっと広まってほしい学校です」と話す。そして「私も高校、大学と『普通』だったので、今だったら入学しているかもしれません」とほほえんだ。
小説には、ザリガニグラタンコロッケバーガー、シジミそうめん、ナマズせんべい、鮎の乳酸菌チーズなど、ナカスイならではの料理が続々と登場する。馬頭高の生徒が実際に研究開発した記録を参考にしたという。ただ、記録がない料理は村崎さんの創作。実際に再現できたのは「シジミそうめんだけ」と明かすが、その味や料理の見事な描写は前作に続き健在だ。
さくらは、個性的な同級生や那珂川の豊かな自然、食材に囲まれながら「甲子園」出場に向け料理の創作に打ち込む。<青春とは人生のある時期ではなく、キミの心が決めるものだ>。米詩人サムエル・ウルマンの有名な詩「青春」の一節が効果的に引用される。
「学校のホームページに、『青春』を訳した額が校内にあると紹介していて、この詩を小説に載せたいなって思ったんです。英語の先生でもある校長先生に、中高生向けに易しく訳してくださいってお願いしたら、快諾していただきました」。作中に登場し巻末に全文が掲載されている「青春」は、同高の小池学校長(当時)による翻訳だ。
「青春ど真ん中の方々に読んでもらえるとうれしいですね。辛いことがあっても、逃げるのも一手だし向かって行くのも一手。どっちが正しいかなんてないんですよって、言いたいです」と期待を込めた。