米・NYのギャラリーが浮世絵、木版画...日本の古典アート専門にこだわる、その理由
米・ニューヨーク(以下、NY)の中心地ミッドタウンの歴史的なビルにあるRonin Gallery(ロウニン・ギャラリー)は、1975年創業で、米国最大規模の浮世絵と木版画コレクションを誇る。2代目画廊主のデービッド・タロウ・リバートソンさんは、NYのユダヤ系一家に生まれながら、ミドルネームに「太郎」という日本名を持ち、世界のアートの中心地で日本の古典芸術にこだわる。その理由とは?
NYミッドタウンの40丁目。商業やエンタメの中心タイムズスクエアにほど近く、世界からの観光客が行き交うNYの中心地に、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが建てた歴史的なビルが今も残る。その中に、米国人が収集した日本の浮世絵(日本の木版画)の画廊があろうと誰が想像しようか。
1975年創業のロウニン・ギャラリー、2代目社長のデービッド・タロウ・リバートソンさんは、父ハーブさんから2012年に引き継いだ。
ギャラリーの奥は、障子をしつらえた日本風のオフィススペースになっている。日系の施工会社に依頼して作ってもらった特注だ。さらにその奥はコレクションの保管庫スペースが広がる。
日本の浮世絵(木版画)を含め、現在、このギャラリーが所蔵する作品数は1万337枚だという(23年6月5日時点)。この数字は同ギャラリーが把握する数で、コンピュータに未入力のものもあるため実際の数はさらに多く、日々、変動する。
デービッドさんは「米国内で日本の木版画をもっとも集めているギャラリー」と自負する。コレクション数は自社調査に基づくもので、他のコレクションと数を比較したことはないが、「これほどの規模のコレクションを国内で見たことがない」という。
ロウニン・ギャラリーを創設したのはデービッドさんの両親であるハーブ&ロウニ・リバートソン夫妻だ。しかし、デービッドさんと同名の祖父の存在がロウニン・ギャラリーの歴史をたどる上で欠かせないと言う。「われわれは私で4世代目になるNYのユダヤ系一家です。2世の祖父は1920年代、南シナ海の商船員でした」。
祖父は船で日本、中国、インドネシアとさまざまな国を訪れた。次第に訪問国で芸術作品を買い集めるようになり、中には珍しい日本の浮世絵があった。
「祖父は無線官をしていました。当時の船はそれほど大きなものではなく、それぞれの乗船員に割り当てられたフットロッカーに保管できる私物はごくごく限られていました。浮世絵は彼のフットロッカーにぴったりハマるサイズだったのです」
これが日本の古典芸術に関わるリバートソン家の運命の始まりだった。
航海のたびに増えていった芸術作品は、息子のハーブさんの日本への興味を誘った。ケンタッキー州の大学に進学したハーブさん。当時の南部は排外主義的なムードがあってか、ユダヤ系は「よそ者」扱いだった。そんな風土の中、心が通い合ったのだろう。大学で出会った日本人学生から空手を教わり、2人は生涯の親友に。
ハーブさんは親友を通じて地球の裏側の日本にさらに魅せられるようになり、想像をかき立てられた。ことさら日本の古典芸術に対する興味や憧れは特別なものに。木版画を単体ではなくコレクションを丸ごと収集し始めるようになったのは60年代から。
アート教育の指導者だった母ロウニさんも、ハーブさんと出会い日本文化に興味を持った。その2人が結婚し授かったデービッドさんが、生まれながらに日本との深いつながりがあるのは言うまでもない。
「いつも『なぜ日本風のミドルネームなの?』って尋ねられますが、これで理由がお分かりになったでしょう。しかも私は長男ですから理にかなっていますね」