現代美術や浮世絵に見る、のりものとアートの深い関係とは? この秋、注目の2展をご紹介。
今年は日本で初めて鉄道が開通してから150年。それを記念して『鉄道と美術の150年』展が開かれる。会場は辰野金吾設計のJR東京駅の駅舎内にある〈東京ステーションギャラリー〉。否が応でも “鉄” な気分が盛り上がる。
鉄道の開業は社会構造だけでなくアートも変えた。明治維新間もない日本でも登場したばかりの鉄道に絵師たちは夢中になった。河鍋暁斎は極楽行きの汽車を描き、歌川広重(三代)の錦絵には文明開化の象徴として華々しく描かれる。この頃の絵には実物を見たのではなく、想像力をたくましくして描かれたものも多いが、最新技術への憧れが垣間見えて楽しい。
時代が下り、鉄道が普及して庶民の足となると、汽車や駅舎で繰り広げられる人間ドラマも描かれる。赤松麟作や木村荘八らの絵画の、混み合う夜汽車や駅で電車の到着を待つ人々の姿は、さまざまなことを思わせて共感を呼ぶ。
戦後現代美術にはさらに多彩な鉄道の姿が登場する。多くの人が利用する鉄道はハプニング(パフォーマンス)の舞台ともなった。通勤で毎日使う駅や電車がアートの場になる、その驚きは一際新鮮なものだろう。本城直季やW・ユージン・スミスら個性的な写真や、おもちゃのプラスチック・レールを縦横無尽に敷設したパラモデルの作品も興味深い。
〈東京ステーションギャラリー〉東京都千代田区丸の内1-9-1。2022年10月8日~2023年1月9日。月曜、10月11日、12月29日~1月1日休(ただし10月10日、1月2日、9日は開館)。10時~18時(金曜は~20時)。
時代を少し遡って江戸時代の「のりもの事情」も見てみよう、というのが〈太田記念美術館〉の『はこぶ浮世絵―クルマ・船・鉄道』展だ。登場する浮世絵に描かれた、江戸の交通事情では水運に注目したい。鉄道や自動車のなかった江戸は“水都”であり、現代のヴェネチアなみに水路が張り巡らされていた。料亭に遊びに行くのに、タクシー代わりに舟に乗る。橋のない川では渡し舟が不可欠だった。今ではちょっと珍しくなってしまったこれらの光景には特別な旅情がかき立てられる。