桜井信一の攻める中学受験 「夏期講習でも新しい単元を習います」…下剋上はばむ夏休みの塾 今わが子に何が必要?
この時期、中学受験生の保護者たちは「夏が中学受験の天王山」を合言葉に気合い十分で夏休みを迎えます。天王山の語源からするとこれはちょっと違う。戦は上から下に攻める方が有利で、防御にももちろん有利。だからこそ秀吉と光秀は天王山を先に占拠しようとしたのです。夏休みを迎える前に上を占拠されている中学受験で「天王山」はおかしな話。
夏休みに狙うべきは「下剋上への道」なのです。これは歴史的にみても何度も成功しています。十分に作戦を立てて信念を持って臨めば、下剋上はそこまで夢物語ではありません。
まず準備段階として、夏期講習についての現状を把握しなければいけません。この暑い中、毎日長時間塾に通い、くたくたになって帰ってくるわが子。かわいくて仕方がない。頑張っている姿を見ると本当に立派になった。はて、そうでしょうか? 夏休みに入る前に2時間の勉強すら集中できなかった子が、どうして急に朝から晩までの勉強に集中できると思ってしまうのか。
普通に考えて授業中はぼーっとしているはず。下位クラスなら耐えきれず学級崩壊しているかもしれない。そういえば、参観日がないのもどうも怪しい。そう考えるのが普通の流れだと思うのですが……、やっぱり疲れたわが子の顔はかわいいのです。ただし、残念ながら立派にはなってはいません。
夏期講習の期間に挽回するためには、自宅時間が重要なのです。そこで力を発揮できるように「塾ではもっとぼーっとして頭を休めなさい」と言いましょう。疲れ切って家で何もできないなら下剋上はかなわないのですから。
ところで、夏期講習って何をするのでしょうか。新学年から7月までの復習と思っていませんか。そんなことはありません。4年生と5年生は、夏期講習中にも新しいことを習います。特に5年生は比や相似など中学受験の鍵となる重要な単元を習うのです。
ある5年生の保護者が塾に電話をしました。「あの~、夏休みは家族で帰省したり旅行したりするので夏期講習はお休みさせてください」。
6年生の夏はさすがに休めないから、5年生のうちにと思ったのでしょう。すると、塾の先生はすかさず答えました。「え? 新しい単元を習いますけど。しかも比と相似ですけど。そこ、習わないまま9月になっていいんですか?」。
このあと、保護者は夏期講習の申込書を迷わず提出することになるのです。じゃあ、4年生からは夏休みにどこも行けないのかというと、そんなことはありません。新しく習うその単元を、親が教えるなり、個別指導で教わるなりすればいいのです。そんなに大した時間は必要ないでしょう。ぼーっとしているから長時間になるだけで、真剣勝負ならそんなに時間はかかりません。
塾で成績が低迷した。これはもうそのままの流れで本番までの期間を過ごすことになる。下位クラスと上位クラスでは習っていることも違いますし、真剣度合いも違います。塾というのは下剋上できる仕組みになっていません。塾以外の時間に目を向けないといけないのです。
そこで一番可能性が高いのは親が一緒に勉強するという方法。私はこれでやりました。私の知人も同じ方法でした。この方法の良いところは、子どもが何に困っているのかが手にとるようにわかるということ。弱点とかではなく、どういうことに頭が回らないかがわかるのです。その解決策を考えるのは、まだ小学生の子どもより大人の方がやっぱり長けている。
中学受験の経験の有無が重要なのではなく、いま目の前のその問題を解決することだけに集中するのです。そのひとつだけの解決を考える。その連続が、きっかけを生むのです。
私は今でも覚えています。算数は苦しんだ末、横でつながる瞬間が来ます。それが中学受験の本番より前に来るか、後になるか。そろそろ、ソワソワしてきたでしょうか。
筆者紹介
桜井信一(さくらい・しんいち) 昭和43年生まれ。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。進学塾では娘の下剋上は難しいと判断、一念発起して小5の勉強からやり直し、娘のために「親塾」を決意。最難関中学を二人三脚で目指した結果、自身も劇的に算数や国語ができるようになる。現在は中学受験ブログ「父娘の記念受験」を主宰、有料オンライン講義「下剋上受験塾」を配信中。著書に、テレビドラマ化されたベストセラー『下剋上受験』をはじめ、『桜井さん、うちの子受かりますか』、馬淵教室と共著の『下剋上算数』『下剋上算数難関編』などがある。