はじめての美術館はどこに行く? 「ミュージアム・マニア」青い日記帳のTakがご案内(丸の内・京橋編)
上野編、六本木編に続き第3回目は東京駅周辺にある美術館を紹介します。戦後間もない昭和27年(1952年)に開館したブリヂストン美術館(現・アーティゾン美術館
)や東京国立近代美術館といった歴史ある館があるいっぽうで、昨年オープンしたばかりの丸紅ギャラリーや2022年10月に世田谷から移転する静嘉堂文庫美術館
といった真新しい館も存在するエリアです。
また銀座にも近く、陽気のよい日にはてくてく歩いて買い物を楽しみながら、ミュージアム、ギャラリー巡りをするのにも最適です。1600年に日本に漂着したオランダ人ヤン・ヨーステンが地名の由来とされる「八重洲」周辺は大規模な再開発が進められている地域で、その変貌ぶりに久々に訪ねる方は驚かれることでしょう。お洒落なショップや飲食店も新規開店し目的地になかなかたどり着けないのが玉に瑕です。
梅雨時に嬉しい傘要らずの美術館
さて、今年は例年以上に雨の日が多いように思われます。せっかくのお休みなのに雨天だと美術館に出かけるのも億劫になってしまいます。ましてや梅雨時となるとなおさらです。そんなときこそ、駅から傘要らずの美術館がいくつもある東京駅周辺(丸の内・京橋エリア)がおすすめです。
例えば、東京ステーションギャラリー
はその名の通り、東京駅のなかにあります。東京駅丸の内北口改札を出るとすぐ左手に美術館入口がある絶好のロケーションです。地下鉄丸の内線(東京駅)、東西線(大手町駅)、千代田線(二重橋駅)も地下通路でつながっており、3路線ともM12出口の階段を上がると雨に濡れることなく東京ステーションギャラリーにたどり着けます。
同じく東京駅地下通路で直結しているのが三菱一号館美術館
です。美術館公式サイトには「JR東京駅から雨に濡れないルート」が丁寧に示されています。また東京大学博物館「JPタワー学術文化総合ミュージアム
インターメディアテク
」(東京駅)、重要文化財「明治生命館」内に移転する静嘉堂文庫美術館(二重橋駅)も駅直結です。雨の日ばかりでなく、紫外線や夏の炎天下を避け美術館にたどり着けるのはとても有難いポイントです。
忘れられた画家の「発掘」を得意とする美術館
駅直結なだけでなく、東京ステーションギャラリーは、美術通のあいだでも静かに注目されています。その理由はほかの館では扱わないような美術の歴史に埋もれてしまった作家たちにふたたび光をあてることにとても長けているからです。
アイヌ民族として、熊彫りを代表とする木彫作品を数多く残した藤戸竹喜(1934~2018)、1920年代パリを拠点に抽象絵画を極めた坂田一男(1889~1956)、誰しも魅了する現代アート界の異色の画家・吉村芳生(1950~2013)、稀有な経歴をもつ幻の日本画家・不染鉄(1891~1976)などアートファンであってもその名前を知らないアーティストたちの展覧会を毎年行っています。
年に4、5本開催される企画展に必ずこうした「発掘」系のものがひとつ含まれている点に東京ステーションギャラリーの矜持を感じます。都内に美術館は山ほどありますが、いずれもその館の特色を出そうとつねに努力し、魅力的な展覧会を企画しています。いくつか観ていくうちに自分の好みと波長の合う美術館に必ず出会えるはずです。
なお、東京ステーションギャラリーのある「東京駅丸ノ内本屋」は国の重要文化財にも指定されており、1914年に辰野金吾の設計により創建された当時の様子をいまに伝える赤レンガ壁の展示室をもつ特別な展示室も大きな魅力のひとつとなっています。
いいこと尽くめの三菱一号館美術館
学生時代、同じクラスに見た目も良く、勉強やスポーツそれにコミュ力と何をとってもそつなくパーフェクトにこなすクラスメイトが必ずひとりはいたものです。美術館にあてはめると三菱一号館美術館がそれにあたるのではないでしょうか。とにかくどこをとってもいいことづくめなのです。
年に3回の企画展は西洋絵画をメインに、日本画、浮世絵、写真、ファッションに至るまで多岐にわたります。ヴァロットンやシャルダン、マリアノ・フォルチュニなど他館が扱わない画家を紹介したかと思うと、「レオナルド×ミケランジェロ展」「プラド美術館展」など超メジャー系の展覧会も独自開催しています。2、3年通い詰めれば幅広いアートの魅力を体得できるはずです。
明治時代に英国から招聘された建築家・ジョサイア・コンドル設計の丸の内オフィスビルの嚆矢となった「三菱一号館」(1894年)を、明治期の設計図や解体時の実測図などをもとに忠実に復元した建物自体もひとつの作品のようです。個人的には、鑑賞者の導線を確保するために新設されたガラスの廊下がとくにおすすめで、ここで一息ついたり、緑豊かな中庭を眺めたりと他館では味わえない時間を過ごせます。鑑賞の合間にいったん「外」に出られることなかなかないのでとても新鮮な体験です。
以下の記事で紹介した、「Café
1894」はミュージアムカフェのなかでもっとも人気のある店で、昼夜問わず賑わいをみせています。明治時代に銀行の窓口だった空間をそのまま復元しカフェとしているので、レトロな雰囲気が人気を博し、ドラマやMVのロケ地としてもしばしば使われています。美術館の展示がないときにだけ提供される限定のアフタヌーンティーは口コミで人気をよび容易に予約もとれないほどです。
>>「Café 1894」から「NEZUCAFÉ」「HARIO CAFE」まで。都内で行くべきミュージアムカフェ・レストラン10選
ミュージアムグッズを扱う「Store
1894」では、センスあふれる商品だけを独自開発及びセレクトし扱っており、その洗練された商品を前にすると普段財布の紐の硬い人でもここではついつい手を出してしまうはずです。
三菱一号館美術館がパーフェクトなのはこれだけではありません。SNSの利用も非常に長けており、Twitterは約6万人のフォロワーを誇り、自館だけでなく近隣の美術館の展覧会も紹介しています。またあまり知られていませんが、近隣の託児所キッズスクウェアの利用料が展覧会チケットを提示するだけでお得になるサービスも行うなど、まさに至れり尽くせりなスマートな美術館なのです。
若い人がいま一番訪れているアーティゾン美術館
東京駅周辺エリアでもっとも古い歴史を有するアーティゾン美術館は、かつての名称ブリヂストン美術館をビルの建て替えに際し、名前も新たに2020年にオープンしました。他館に先駆けてウェブでの事前予約制を導入するなどし、開館当初から話題を集めています。事前予約制は当初賛否両論がありましたが、コロナ禍で状況は一変、他館でも事前予約が当たり前となったことで、その先見性が高く評価されています。
石橋正二郎の収集した豊富なコレクションを軸に、現在でも精力的に作品を購入し続け、近年では現代アートや日本美術にもその幅を広げ、《鳥獣戯画断簡》を里帰りさせ注目されました。上野の国立西洋美術館よりも長い歴史をもつ、このエリアのまさに生き字引的存在です。
そんな森のフクロウのような老舗館ですが、いま、日本で一番若い人に人気で多くの人が訪れているのがアーティゾン美術館なのです。大きな理由として、開館以来画期的な試みとして大学生・専門学校生・高校生を含む学生の入館料を無料(要ウェブ予約)としている点と、館内での写真撮影を基本的に可能にしている点があげられます。ほかにも館内にフリーWi-Fi完備、公式アプリでは無料の音声ガイドも提供、また休憩コーナー(ビューデッキ)のベンチには電源も完備し自由に使えるなど至れり尽くせりなのです。
試しにInstagramのハッシュタグ検索でアーティゾン美術館を見れば、いかに若者の人気を博しているかが一目瞭然です。映える写真を撮る目的で訪れた若者のなかで100人にひとりでも、アートの魅力に目覚めてくれたらこれ以上の喜びはありません。
なお、アーティゾン美術館もカフェやショップは是非立ち寄りたい素敵な空間です。JR東京駅(八重洲中央口)から八重洲地下街を端まで歩き24番出口の目の前に位置しているので、ここもまた雨の日にも行きやすい美術館のひとつです。
無料巡回バスを活用しよう
結びも、雨天の日の話をしましょう。東京駅を起点とした無料巡回バス(丸の内シャトル、メトロリンク日本橋)が約10分間隔で走っており、暑い日や雨の日には積極的に利用することで美術館巡りだけでなく、ショッピングなども苦なくできます。バスの車窓から眺める東京の街並みもまた乙なもので、道すがら新発見の連続です。
メトロリンク日本橋を利用すると、三井記念美術館、国立映画アーカイブ
、アーティゾン美術館、それに日本橋三越や高島屋での展覧会も楽々はしごできます。丸の内シャトルでは、三菱一号館美術館、出光美術館
、この秋開館する静嘉堂文庫美術館、それと皇居内にあり皇室の名品を公開している三の丸尚蔵館(現在建替え中。2025年完成予定)や、水のアートをいつでも楽しめる皇居外苑和田倉噴水公園もおススメです。
和田倉噴水公園内にあった和田倉無料休憩所が昨年、環境配慮型の新しい店舗「Greener Stores」の日本での1号店「スターバックス コーヒー 皇居外苑
和田倉噴水公園店」として生まれ変わりました。店内にアート作品も展示されており、木のぬくもりと水が織りなす都心のオアシスとしていまもっとも人気を集めています。
ウェブ版「美術手帖」では全国の美術館・展覧会情報を知ることができます。エリア検索で「すべてのエリア」→「『東京』→『丸の内・銀座』で絞り込み、興味のある展示がないか探してみましょう。すこしでも琴線に触れそうな展覧会があったら、重い腰をあげて美術館へ出かけてみましょう。
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