鼈甲細工でピアスも 伝統工芸を未来へ、3兄弟奮闘
「『これも鼈甲?』と驚いてもらえるものを作っています」。ベッ甲イソガイ代表の磯貝剛さん(47)はこう話す。3兄弟の次男だが、大学卒業と同時に父の實さんに師事し、職人としての経験は3兄弟で一番長い。
その2年後には兄の克実さん(49)、さらに3年後には弟の大輔さん(45)も工房に戻り、平成15年から3兄弟での鼈甲細工づくりが始まった。
■それぞれに持ち味
丁寧に作り込む克実さん、アイデアを続々と生み出す剛さん、製作スピードが速い大輔さん。それぞれの持ち味が、前例のないユニークな作品の誕生につながっている。
従来は、かんざしや帯留めなど着物に合わせる装飾品が中心だった。剛さんたちは、洋服が主流になっている現代に合わせたアクセサリーや、見て楽しむ芸術品のような新たな鼈甲細工のあり方を模索している。
一つ一つの色が違う天然素材の特徴を楽しむために形をシンプルにしたネックレスやピアス、輪ゴムを模した観賞用の置物など、ユニークな作品が並ぶ。動物の形をしたブローチは、店舗で消費者と話し合ってデザインを決めることもあるそうだ。
「工房から販売店舗まで自分たちだけでやっているので、価格も抑えられ、お客さんから今のトレンドなども聞くことができます」と剛さん。ピアスやブローチは1万円以下のものも多く、比較的安価で、若者にも人気がある。剛さんたちは鼈甲細工の裾野の広がりを感じているという。
■材料調達が課題
鼈甲細工は「タイマイ」というウミガメの甲羅を材料としている。諸説あるが、中国で6世紀末ごろに作られ始め、日本には江戸時代に入ってから、ポルトガル人の来日で長崎に製法が伝わった。以来、長崎から全国に広がり、東京、長崎、大阪が鼈甲の三大産地とされるようになった。
今では、東京近郊の職人でつくる「東京鼈甲組合連合会」の会員の作品は「江戸鼈甲」と呼ばれ、国指定伝統工芸品に認定されている。
ただ、材料のタイマイは平成6年、ワシントン条約に基づき輸入が禁止され、現在はそれ以前に輸入された在庫を中心に使っている。高齢で引退する他の職人などから材料を譲ってもらうこともある。
タイマイは国内ではほとんど取れず、材料が調達できなければ、鼈甲細工の伝統は失われる。磯貝さんら業界関係者の有志は平成29年、株式会社「石垣べっ甲」を立ち上げ、沖縄でタイマイの養殖を始めた。現在は試験的に供給が始まりつつあり、材料面でも伝統技術の継承に努めている。
「前例のない鼈甲細工で、今まで知らなかった人にも鼈甲を広める。同時に貴重な素材を次の世代に残す取り組みも進めたい」
鼈甲を江戸から現代、そして未来へとつなげる情熱を込めて剛さんは語った。(永井大輔)