シナリオのない映像作品。ウェンデリン・ファン・オルデンボルフの個展「柔らかな舞台」が東京都現代美術館で開催へ
ウェンデリン・ファン・オルデンボルフは、約20年以上にわたり映像作品や映像インスタレーションを発表してきたアーティストだ。その作品の数々では、シナリオを設定しない撮影にキャストやクルーが登場。彼らがあるテーマについて対話する過程で発露する主観性や視座、関係性をとらえることで、鑑賞者の思考との交差を促すというものだ。
ファン・オルデンボルフの初期作品からは、17
世紀のオランダ領ブラジルで総督を務めたヨハン・マウリッツの知られざる統治をめぐり議論する《マウリッツ・スクリプト》(2006)、そして、オランダによる植民地政策や、インドネシア独立運動にフォーカスした《偽りなき響き》(2008)の2作品が紹介される。ある場所がもつ歴史的文脈と、異なるバックグラウンドや専門分野を持つ人々の声は、ファン・オルデンボルフの作品において豊かな多声性をもたらす重要な要素となっている。
ほかにも、ファン・オルデンボルフの映像制作にはジェンダー問題を様々な角度からとらえた作品も多い。ポーランドの映画産業に関わる女性たちと制作した《obsada
/ オブサダ》(ポーランド語で「キャスト」の意味)では、20
世紀の前衛芸術においても見落とされ、今日の芸術生産の場でも解消されないジェンダー不平等の問題と、これからの変化に対する希望について、女性たちがともに撮影を進めながら率直な言葉を交わす様子がとらえられている。
2019年に撮影された《Hier.
/ヒア》(オランダ語で「ここ」の意味)でも、オランダで音楽活動や文筆活動を行う若い女性たちが紡ぐ、自らの異種混交的なルーツや性についての表現を取り上げている。
また、本展を機に東京で制作される新作では、おもに1920年代から1940
年代にかけて活躍した女性の文筆家たちを取り上げ、女性の社会的地位や性愛、戦争といった問題に切り込んだテキストを通じて、それらが今日のどのような側面を映し出すのかを探るという。
ファン・オルデンボルフは展示空間に関しても、支配的な言説やイメージからいかに逸脱しうるのかという問いを重ねてきた。本展ではこれらの映像作品を、フレームを定めることのない舞台セットのようなインスタレーションとして鑑賞できるのもみどころのひとつだ。