東京都人権部が飯山由貴の映像作品を検閲。上映禁止は「極めて悪質」
《In-Mates》は、国際交流基金主催のオンライン展覧会「距離をめぐる11の物語:日本の現代美術」に出品するため、飯山が2021年に制作したもので、1945年に空襲で焼失した精神病院・王⼦脳病院(東京)の⼊院患者の診療録に基づくドキュメンタリー調の映像作品。関東大震災時の朝鮮人等の虐殺事件を扱うもので、同院診療録に記録された2⼈の朝鮮⼈患者の実際のやりとりに基づき、ラッパー・詩⼈で在⽇コリアン2.5世であるFUNIが、⾔葉とパフォーマンスによって彼らの葛藤を現代にあらわそうと試みる姿が記録されているという。
この作品については、国際交流基金が「暴力的な発言や、歴史認識を巡って非生産的な議論を招きかねない場面が含まれる」として上映を許可しなかった経緯がある。これだけでも大きな問題だが、今回の上映禁止はこれに輪をかけるものだ。人権部は、朝鮮⼈等の虐殺事件を扱うことについて懸念を示し、上映禁止の判断を下したのだという。
中止に至った経緯
そもそもこの企画展は今年3月28日、⼈権部が東京都人権プラザを運営する公益財団法⼈東京都⼈権啓発センターに対し、企画展の事業計画を承認したもものだ。4月25日には⼈権啓発センターから⼈権部に《In-Mates》上映会を含む附帯事業計画書が提出された。しかし5月に入り、事態は一変する。
5月9日、⼈権部は⼈権啓発センターに電話で同作の国際交流基⾦での発表中⽌について問い合わせを行い、12日には、作中で外村が「⽇本⼈が朝鮮⼈を殺したのは事実」と発⾔しているシーンに対し、「これに対して都ではこの歴史認識について⾔及をしていません」とメールで反論。小池都知事が関東⼤震災の朝鮮⼈追悼式典に追悼⽂を送っていないという状況を踏まえ、「都知事がこうした⽴場をとっているにも関わらず、朝鮮⼈虐殺を『事実』と発⾔する動画を使⽤する事に懸念があります」などと書かれていたという。まるで都知事に忖度したかのような物言いだ。
その後、8月2日には⼈権啓発センター側と飯⼭の話し合いがもたれ、上映中止の理由として「《In-Mates》内のFUNIのラップがヘイトスピーチに当たる懸念」「本作は在⽇コリアンについての作品であり、精神障害、精神医療についての作品ではない」などが⽰されるも、「関東⼤震災における在⽇朝鮮⼈に関する懸念」についてはなぜか説明されなかったという。
その後、8月30日に展覧会がスタートしたものの、アーティスト・トークや専⾨家を招いてのトークイベントが⼀切実施できない状態となっており、飯山が上映中⽌について公の場で発⾔する機会が奪われている。
都は真摯に説明を
飯山は現在の状況について、「⾮常に⼤きな機会の損失を観客も私も受けています。マイノリティに関する表現を扱ううえで、こうした対話の場と機会は⾮常に重要なものです。しかし、それも⼈権部は⾮常に軽んじている様⼦が窺えます」と人権部を批判。「この『検閲』は、在⽇コリアンへのレイシズムに基づく極めて悪質なもの」としつつ、小池都知事に対しては、「これまでの⾃らの⾏動が⾏政職員による偏⾒と差別⾏為の煽動となっていることを⾃覚し、本事件が発⽣するに⾄った経緯をあらためて調査し、公に説明してください」と要望している。
いっぽう外村は、都と⼈権啓発センターに関し、「⾃分たちの職務の重みを改めて認識して、この作品の上映を許さなかった理由がなんであるかを、明確にする、それが関東⼤震災時の朝鮮⼈虐殺に関係しているとすれば、飯⼭さんに謝罪して、あらためてこの作品を上映する機会を設けるなどの措置を検討するべきだ」と強調する。
検閲の禁止は憲法第21条2項に定められているものであり、行政はそれを率先して守るべき立場だ。飯山は人権プラザという展示場所であるからこそ、「一緒に上映可能にしていくような対策を考えていただきたかった」と話している。美術館を含む多くの文化施設を有する都は、この訴えに真摯に向き合うべきであろう。
なお、11⽉2⽇には東京藝術大学で《In-Mates》の上映会とシンポジウムが開催される。今後、飯山らはChange.orgでの署名活動や都知事・東京都⼈権部への要望書提出、東京都議会への請願・陳情を行うとともに、《In-Mates》の上映機会を探っていくという。
*──東京都人権部のウェブサイト
によると、人権部については以下のような説明がある。「東京都総務局人権部は、都民一人ひとりの人権が尊重される社会を実現するため、人権施策の企画立案や調整、人権尊重の理念等の普及啓発、研修などを行い、人権施策を総合的に推進しています。また、我が国固有の人権問題である同和問題の早期解決に向け、関係機関及び関係団体との連絡調整等を行っています」。