歴史・時代小説書くことで今の問題点を考えるヒントに 直木賞に選ばれた永井紗耶子さん
江戸時代の芝居小屋を描いた受賞作「木挽町(こびきちょう)のあだ討ち」には、大ファンだという歌舞伎や舞台への愛がにじむ。自身の体験も注ぎこみながら「本当に楽しんで書いた」一編だった。
30代で作家デビューする前、長くフリーのライターとして働いていた。役者からビジネス界まで多様な職種の人々に会っては、その声を記事にまとめた。呼び込み、衣装係、立師…。受賞作で、章ごとに語り手を務める芝居小屋の面々の個性あふれる声に、そんな体験が生かされた。
「ライターとして、たくさんの方にインタビューさせていただいた。その方々のしゃべり方、経験、まとっている空気感が自分の中に少しずつ蓄積されていったのだと思う」。そして「回り道はあっても、人生に一つも無駄なものはなかった」とも。
受賞作では、歌舞伎で人気の「あだ討ち」を題材に忠義や正義の意味を問い直した。人々の心の自由を探ろうとする視点は、江戸期の戯作者、栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)の生涯を描く「きらん風月」にも流れている。
「江戸時代の史料を読むと、政治が作るかちっとした社会がある一方で、芝居や戯作が表現する自由もあるのが分かる。多様性があるんですよね。歴史・時代小説を書くことで、今の問題点を考えるヒントを少しでも見つけられたら」(海老沢類)