教員によるいじめ報告書学校は子供のため 原点に「科学的」 尾木ママは高評価
教員による児童へのいじめが滋賀県野洲市の同一市立小学校で2件相次いだ問題で、同市教育委員会は今月1日、「このような事案を繰り返さないために」とした報告書をまとめた。同市立小中学校いじめ問題専門委員会の意見を聞きながら、「事案の概要」「要因と背景」など6項目で再発防止策を示した。最後の項目では、「学校はあくまで『子どもたちのために』ある」とし、「原点に立ち返って、教育実践に取り組みたい」と誓った。内容を詳報する。
報告書は全10ページで、うち「要因と背景」の項に半数の5ページを費やしている。「要因と背景」では2件の事案について、それぞれ、教員個人▽管理職▽学校組織▽市教委―に分けて課題をあげた。
■管理職が思考停止
<事案A> 令和3年4月から4年生の担任をしていた30代の男性臨時講師は質問に答えられなかった児童を立たせたまま授業を受けさせるなどの不適切な言動で管理職から注意、指導を受けていた。同年11月の校外学習では、児童から「自分は(アニメ映画の)どの登場人物」と聞かれ、マイナスイメージを与えるキャラクターに例え、児童間のいじめを誘発した。いじめをやめるように指導したが、自分の発言がいじめを誘発したという認識はなかった。
このケースでは30代の男性臨時講師は教員個人の課題で、「『保護者からのクレームが原因で自分のやりたいことができない』と児童の前で話す」「校長や教頭のたびたびの指導やほかの教員の注意をなかなか受け入れなかった」と指摘した。いずれも教員としての資質が問われるものだった。ただ、それ以上に大きな課題として明らかになったのは管理職の課題だった。
「事案Aが通例ではありえない事案であるという認識から抜け出せなかった」「教職員はそんなことをするわけがない、この事案は例外であるという意識が思考を停止させ、対策を取らなければならないという発想に至らなかった」
報告書では、この「教職員はそんなことをするわけがない」という管理職の意識が、「事案Aの反省を事案Bに生かせなかった」とした。
■ベテランほど課題
<事案B> 50代の男性教諭が令和4年5~7月、授業中に「〇〇ってどういう意味」と再三質問する2年生男児にいらだち、「本当に言葉を知らんな」「うるさいなあ」「スルー(無視)しよう」などと週2、3回の頻度で発言。また、ADHD(注意欠陥多動性障害)だと決めつけ、保護者に「早急に発達検査を受けるべき。薬を飲んだら落ち着くんじゃない」と突然伝え、不安を抱かせた。
このケースの50代の男性教諭については、教員個人の課題で「仕事と生活の両立が多大な負担で、心身ともに疲れ切った状態で勤務していた」「体力の低下も伴い、指導中に自分の感情をうまくコントロールしたり、最適な指導法を選択したりすることが難しい状態だった」といった本人への聞き取り内容を示した。
また、学校組織の課題として、「近年、学校では若い教員が急増し、中堅やベテラン教員は『できて当たり前』と思われてしまう状況。これがベテランにとってはプレッシャーとなっている」などとした。
教員のための相談システムの構築などを再発防止策として示したが、ベテラン教員に対する数多くの課題が浮き彫りになった。
■「模範になる」
「教員に聞き取りし、要因と背景や再発防止策を示している。科学的でしっかりととらえている」
報告書について、滋賀県伊吹町(現・米原市)出身の「尾木ママ」こと教育評論家の尾木直樹さん(76)は高く評価した。特に事案Bの50代男性教諭について、「ストレスに原因を求めている。往々にして『叱る』姿勢に立つ教育委員会では、なかなかできない分析で、しっかり聞き取りし、教員に寄り添う形でやっているのがわかる。教育行政としては素敵(すてき)だ」という。
また、事案Aの管理職の課題の指摘についても、「60歳ぐらいになると思い込みが生まれる。管理職の弱点を指摘しており、いいのではないか」とした。
一方、事案Bの児童をADHD(注意欠陥多動性障害)だと決めつけた問題については、「いろんなところで頻発している問題で、再発防止策の『教員の資質向上』で、『障がい観』を見つめ直す必要などを示した報告書は模範になるのではないか」と話していた。(野瀬吉信)