日本画家・木島櫻谷の知られざる障壁画群 京都・南陽院で11月公開
障壁画は南陽院が創建された1910年の作で、本堂にある。だが、記録が乏しく、通常は拝観できない寺院のため、その存在が研究者の間でも知られていなかった。櫻谷の画業を調査研究する泉屋(せんおく)博古館(同区)が3年前に訪ねて確認し、櫻谷が力を注いだ山水画の中でも代表作と目される作品群に新たな光を当てた。
南陽院は、南禅寺では最も新しい塔頭で、1895年に焼失した法堂の再建に尽くした高僧の毒湛匝三(どくたんそうさん)の隠居所として建てられた。櫻谷は1908年から09年にかけ、法堂の天井画を引き受けた師の今尾景年(けいねん)を助けて制作に参加。師と親交の深い毒湛を慕うようになり、隠居所の仕事を任されたとみられる。
50面の障壁画は本堂の5室を墨のみで彩る。禅宗寺院には伝統的に中国の深山幽谷を理想化した山水画が描かれてきたが、柴木を背負う里人が行く渓谷や柳が雨に濡れる湖沼、漁網が干された浜辺、雪に覆われた野といった、日本で親しまれてきた穏やかな情景を、余白を大きくとる「引き算の美」で描いた。
泉屋博古館の実方(さねかた)葉子学芸部長によると、櫻谷の旧邸(櫻谷文庫)に残る写生帳から、大分の耶馬渓や琵琶湖畔、明石の海などに着想したと考えられるという。岩の陰影や遠近の構成に西洋画の技法が見られ、近代日本画の探究者らしいモダンな表現もうかがえる。
櫻谷は07年に始まった文部省美術展覧会の日本画部門で最高位に。第7回展で審査員になるまで6年続けて上位入賞した。最も充実した時期に南陽院の仕事も手がけたことになり、実方さんは「部屋ごとに情景を描き分ける構成力と見事な筆遣いに気概が伴った作品」と評す。現存する櫻谷の障壁画は他になく、南陽院で存在を知った時は驚いたという。
障壁画の一般公開は11月3日~13日、23日~12月11日、南陽院で。泉屋博古館も11月3日から櫻谷の山水画を集めた特別展を開催する。詳細は泉屋博古館(075・771・6411)。