シベリア抑留の絶望描く漆黒 東京で「生誕110年 香月泰男展」
香月(1911~74年)は山口県生まれ。高等女学校の美術教師だった43年に召集され、旧満州国(中国東北部)のハイラルで軍隊生活を送った。戦後はソ連に連行され、シベリアのセーヤなどで2年間、木材の伐採などをさせられた。食糧事情が厳しかった抑留生活最初の冬には、収容された約1割の旧日本兵が死亡したという。
展覧されているのは、シベリアに列車で送られる兵士たちの絶望を表した「北へ西へ」(59年)▽とらわれた部屋の天井にわずかに見える空が美しい「青の太陽」(69年)▽帰国直前にソ連の港町ナホトカで亡くなり、埋葬された人の靴が地面から突き出した様子を描いた「日本海」(72年)など。
昨年亡くなった作家の立花隆氏は著書「シベリア鎮魂歌」の中で「シベリア・シリーズは、絵だけでは伝えきれない情念のかたまり」だと書いている。
従来は、作家の体験の年代順に展示することが多かったが、今回は制作年代順に並べた。美術館の担当者が「過酷な戦争体験と向きあって描き続けた香月の道のりが浮かび上がってくる」と説明するように、制作年代ごとの表現方法の変化をみることができる。
展示は6日までの前期と、その後の後期で作品を一部入れ替える。一般1000円。月曜(月曜が祝日の場合は翌日)休館。