ファッションデザイナーから「魔術師」まで 欧州のゲームチェンジャーたち
イザベラ・ウェザビー(28)が2019年にアパレルラインPeachy Den(ピーチィ・デン)を立ち上げたとき、彼女には実質的にファッションの経験がなかった(彼女の大学の専攻は、政治と国際関係学だった)。しかし、彼女は自分の情熱を追求した。
ブランドは副業として始まった。彼女は、フルタイムの仕事の昼休みの間に、注文を受けた商品を発送していたのだ。トレンディでシーズンレスな定番商品を定期的にドロップすることで、4年後にはブランドはカルト的なファンを増やした。彼女によると、再入荷したミミ・カーゴパンツはわずか24時間で16万ドル(約2200万円)の売上を上げた。
さらにTheory(セオリー)共同創設者のアンドリュー・ローゼンなどのファッション関係者からのサポート、約5万人の顧客層(オリビア・ロドリゴやベラ・ハディッドなど)を持つに至った。
「私はいつも、自分のワードローブに欠けていると感じるものにインスパイアされてきました」と、ウェザビーは言う。「私はインスピレーションを得るためにファッション業界を見たことはありませんし、古典的なファッションの構造やシーズンの観点から仕事をしたこともありません。むしろ、私の周りの女性たちにインスピレーションを求めています」。
■自分の業界を再定義することを恐れない
ウェザビーは、今年の「30 Under 30 ヨーロッパ:アート&カルチャー部門」で表彰されたクリエイターの一人だ。
アート&カルチャー部門では、スペインからスウェーデンまで、先駆的なアーティストや起業家たちが、業界をリードする4人の審査員から最高評価を獲得した。その審査員は、アートディーラーのエヴァ・プレゼンフーバー、ミシュランの星を獲得したパリのレストランMoSuke(モスケ)を率いるシェフのモリ・サッコ(2022年度 Under 30)、ギャラリストのエマニュエル・ペロタン、伝説のコンセプト・ファッション・ショップColette(コレット)を共同設立した創造ディレクター、サラ・アンデルマンだ。
今年選ばれるには、2023年3月7日時点で29歳以下であること、そして30 Under 30のリストに選ばれたことがないことが条件だった。結果、アート、ファッション、デザイン、文学、食の各分野で活躍する30人が選出された。
彼らは自分の業界を再定義することを恐れていない。例えばコルネリウス・シュミット(27)が7年前にドイツの大学の寮で作り始めた3Dプリントマシンは、ノートパソコンさえあれば誰でも自分の靴を作り、プリントできるように設計されている。
シュミットの事業であるZellerfeld(ゼラーフェルド)は、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)やMoncler(モンクレール)などの高級ブランドと取引し、ピーター・ティールが支援するFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)などの投資家から1800万ドル(約24億5000万円)の資金を獲得している。
また、ケララ出身の29歳のデザイナー、ハリクリシュナン・キーシャティル・スレンドラン・ピライ(通称ハリ)は、文字通りファッション業界を吹き飛ばしている。2020年のロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの卒業制作展でデビューして以来、彼のラテックス製のインフレータブル・パンツはソーシャルメディアを席巻。
1000ドル(約13万6000円)から5000ドル(約68万円)のカスタムメイドの作品は、2023年のBRITアワードでサム・スミスが着用するなど、セレブのファン層が拡大しており、Vogue(ヴォーグ)、BBC、Business of Fashion(ビジネス・オブ・ファッション)でも紹介された。
ポップカルチャーの新しい話題を生み出しているのは、ハリだけではない。ノンバイナリーの作家でイラストレーターのアリス・オズマン(28)は、キックスターターのキャンペーンで大成功を収め、2018年に彼らのグラフィック小説シリーズ『ハートストッパー』を出版し、以来、話題を呼んでいる。
このクィア・ティーンのラブストーリーは600万部を売り上げ、オズマンが脚本とプロデュースを担当したNetflixでの映画化は、2022年に公開されると最も視聴されたトップ10のひとつになった。19歳で処女作を発表したオズマンは、過去9年間で55のエディションを発表し、約1200万ドル(約16億3000万円)の売上を記録している。