“木彫り熊”の奥深き世界をいち早く見出した伝説的名著『木霊の再生』改訂復刻!
Casa BRUTUS 2022年1月号の『部屋と置物。』特集で、大々的に紹介した北海道、八雲の木彫り熊。大正時代に第一号の木彫り熊が生まれてからというもの、その姿は表現法が豊かになるとともに刻々と変化し、抽象的な作風も生まれながら作家性を帯びていった。そしてここ数年前からこうした“抽象熊”が再注目されている。その代表的な作家が柴崎重行だ。
八雲町にある温泉宿〈銀婚湯〉で柴崎の木彫り熊に会った途端に一目惚れし、そこから資料を集め、関係者に会いに行き、果てはその成果を本にしてしまった人がいる。竹沢美千子さん。『木霊の再生 柴崎熊の魅力を探る』(2002年刊、文芸社)は、札幌にある竹沢花木園を営みながら、柴崎熊と木彫り熊にまつわる魅力と歴史を読み解いた竹沢さんの知的冒険譚である。いまでは手に入りにくい“幻の名著”と言われているが、20年を経て改訂版が出されることとなった。
そこで、竹沢さんと、改訂版の話を持ちかけ、竹沢さんの背中をそっと押し続けた版元〈プレコグ・スタヂオ〉の編集者、安藤夏樹さんに話を聞いた。安藤さんは、2019年に『熊彫図鑑』を発刊したり、木彫り熊の展覧会を各地で開いたりと、現在の木彫り熊ブームの火付け役でもある。
───2002年に本を出そう、としたきっかけを教えてください。
竹沢 銀婚式で行った八雲の〈銀婚湯〉で柴崎さんの木彫り熊を見た瞬間、「わー、円空さんみたい!」と思ったんです。もともと仏師、円空さんの荒削りで自由な作風の仏像が大好きでした。日ごろ園芸業で木に接していることもあり、私は小細工をしていない作品が好き。柴崎さんの熊はまさに“木をいじめていない”、とひと目で感じました。木の個性を知り尽くしている。そういった点も含め、もう一瞬で虜になってしまったんですね。あと、八雲への旅の最後に、徳川公園を散策していたら「木彫り熊北海道発祥の地」という碑に出会いました。ちょっと寂れた感じだったので、「発祥の地であればなぜもっとこの碑を大切にしないのか?」とふつふつと疑問が湧いてくるわけです(現在は八雲町公民館に移設され、立派な佇まいとなっている)。そもそも木彫り熊発祥はアイヌの人たちでは? という先入観もあったので、とにかく調べたい、知りたい欲求が膨らんでいきました。