県外不出のコレクション。「葛飾北斎」以前の北斎に出会える回顧展が島根で開催へ
葛飾北斎(1760~1849)は、世界でもっとも知られる日本人画家のひとり。江戸時代後期に浮世絵師として登場して90歳で没するまでの約70年間に、狩野派・琳派をはじめ国内外の表現を学び、錦絵・摺物・版本・肉筆画の各分野において活躍。春朗、宗理、辰政、葛飾北斎、戴斗、為一、画狂老人卍など多くの画号を用いた。
森羅万象を描き尽くした『北斎漫画』や風景画の揃物に新機軸を打ち出した《冨嶽三十六景》などの代表作で知られ、その画業は日本のみならず19世紀後半の西洋の芸術家たちにも強い影響を与えてきた。
そんな北斎の研究者である永田生慈(1951~2018)は、島根県津和野町出身。生前、太田記念美術館で副館長兼学芸部長を務め、国内外で多くの北斎展の監修を行った。1990年には、自身のコレクションを中心とした葛飾北斎美術館を津和野町に開館。2015年に同館が閉館したのち、所蔵するコレクション2398件を島根県へ寄贈している。
この「永田コレクション」は北斎に関する個人コレクションとしては世界屈指の規模を誇る。島根県立美術館では複数回の展覧会を通じて、この「宝庫」に眠る貴重な作品・資料を公開していくという。
その「第1章」にあたる本展では、用いていた画号から「春朗期」・「宗理期」と呼ばれる若き日の北斎に焦点を当てる。20~35歳頃の「春朗期」は習作期にあたり、錦絵では師事した勝川派らしい役者絵を中心に、美人画、武者絵、浮世絵、宗教画、玩具絵など多様な画題を手がけていた。
その後45歳頃までは、勝川派を離れて琳派の流れを汲む俵屋宗理を襲名したことから「宗理期」と呼ばれる。豪華な私家版である摺物、狂歌、本の挿絵、肉筆画などの分野にも挑戦し、画風も、温雅で叙情性漂う表現に到達。浮世絵師として大いに飛躍した時期と言われている。
本展では、これまで北斎の知られざる様々な側面を明らかにしてきたコレクションから、春朗期と宗理期の作品あわせて約350点を公開。とりわけ、極めて稀少な春朗期の肉筆画、宗理期における第一級の摺物群「津和野藩伝来摺物」(初の全144点公開)は必見だ。
北斎の春朗期・宗理期だけに焦点を当てる初の大規模展は、永田コレクションが県外不出のコレクションのため、島根県でしか見ることができない。「葛飾北斎」でもなかった知られざる若き日の北斎に出会うべく、本展を訪れみてはいかがだろうか。
なお、会期中の関連事業として、記念講演会、浮世絵の摺り実演やワークショップなどが予定されている。詳細は同館ホームページを参照されたい。