約100年の美術をたどりながら「植物と歩く」。練馬区立美術館で作家を触発してきた植物の歴史を探る
本展の印象的なタイトル「植物と歩く」には、植物の営む時間と空間に感覚をひらき、ともに過ごすという意味を込められているという。練馬区立美術館の収蔵作品を中心に、プロローグとエピローグを加えた計5章で洋画、日本画、ガラス絵、版画、彫刻、和本、植物標本といった様々なジャンルの作品を展示する。
プロローグでは、作家たちが植物とどのように対峙しながらその姿を写し取ってきたのかを探る。植物学者・牧野富太郎による緻密な植物図や、倉科光子が東日本大震災の津波浸水域のフィールドワークを通じて制作した水彩画「ツナミプランツ」など、その視点の多様さを提示する。
第1章「花のうつろい」では、植物の部位のなかでも古くから特別な位相を与えられてきた「花」を取り上げる。早川芳彦が日本画に描いた季節感と華やぎをもたらす花や、靉光の不穏さを漂わせる花、須田悦弘の木彫による写実的ながらもどこか現実離れした花など、その表現の豊かさが感じられるはずだ。
第2章「雑草の夜」は、生命力を感じさせるとともに、ときに繁茂する不気味さも漂わせてきた「草」を取り上げる。ここでは小さな葉が埋め尽くす油彩画を描いた佐田勝などが展示される。
第3章「木と人をめぐる物語」では、古くから人間が素材として利用しながらも、生命の象徴となる神秘的な存在としても扱われてきた「木」をテーマに据える。ここでは、大小島真木がインドネシアの木にまつわる風習から着想して制作した作品などが紹介される。
最後となるエピローグは「まだ見ぬ植物」と名づけられている。芽吹きを待つ「たね」のように、作品が芽吹く環境となる美術館という存在に焦点を当てて展示を行う。
つねに人々の身近にあり、その存在が多様に解釈されて作品のモチーフとされてきた植物。あらためて美術と取り結ばれたその関係を考えることができる展覧会になりそうだ。