コロナ禍以降のメンタルヘルスを考え直す。シンガポールの美術館で開催中の「MENTAL」展をチェック
Wellbeing」が、シンガポールのアートサイエンス・ミュージアムで開催中。会期は2月26日まで。
本展は、メンタルヘルスに対する意識を高めることを目的に同館とオーストラリア・メルボルン大学の科学ギャラリーが共同企画したもの。世界中の現代アーティストや科学者、デザイナーによる24点の作品や大規模なインスタレーションのほか、地元や東南アジアのアーティストによる7つのインスタレーションも紹介されており、地域独自の視点からメンタルヘルスを探求している。
同館バイスプレジデントであるオナー・ハーガーは声明文で、本展は「病気や治療に焦点を当てるのではなく、精神的な健康の万華鏡のようなスペクトルを称賛するものだ」としつつ、「深刻なテーマを真正面から取り上げ、親しみやすい方法で、既成概念にとらわれないアート作品を通して、来場者に驚きと喜びを与えるだろう」と述べている。
展覧会は、「つながり」「探求」「表現」「考察」という4つのテーマで構成されており、幅広い生活体験に基づく人間の心の多様性と複雑性をたたえ、メンタルヘルスとそれに対する偏見や固定観念を考え直すことを試みている。
例えば、展覧会の冒頭を飾るのが、シンガポール人アーティストDivaagarによるマルチメディア・インスタレーション《Model:
Kitchen》(2022)。シンガポールにおける食の重要性を強調する同作では、キッチンにおける様々な場面をデジタルスクリーンで表現することで、理想的な家庭生活や家族の絆など様々な親密さを明らかにしている。
中国人アーティスト、Zhou Xiaohuの《Even in
Fear》(2008)は、ピンクのケージのなかで気象観測気球の膨張と収縮を繰り返すもの。この過程を見た鑑賞者に不安を呼び起こし、それを疑似体験させることで、日常に潜むプレッシャーを問いかける。また、気球は膨張と収縮の繰り返しに耐えられなくなると、やがて破裂する。そして、破裂した気球が新しいものに代わり、そのサイクルがふたたび繰り返される。
《Receipts from
Therapy》(2022)と題されたシンガポール人アーティストYANGERMEISTERの作品は、セラピーセッションのレシートのうえにアーティストの様々な感想を書き込むことによって、「心理カウンセリング」という言葉の持つスティグマを探るもの。これらのレシートにはセラピーセクションの金額が表示されており、心の健康のためのコストの高さも反映している。
また、展示作品の一部は鑑賞者が自ら参加することも可能だ。アーティストのHiromi Tangoと神経科学者のEmma
Burrowsがコラボレーションした巨大なハムスターの回し車のような《Wheel》(2021)や、世界中にいる見知らぬ人または人工知能(AI)と電話を通して会話できるRachel
Hanlonの《Hello Human, Hello Machine》(2021)、AIを使って顔の表情から来場者の感情状態を評価するNina
RajcicとSensiLabによる《Mirror Ritual》(2020)などが、その例として挙げられる。
同館では、オーストラリア人アーティストであるパトリシア・ピッチニーニの東南アジアにおける初の大規模個展「Patricia Piccinini: We
Are
Connected」(~1月29日)も開催されている。シリコンやファイバーガラス、樹脂、人間の髪の毛などの素材を使い、人間と動物のハイブリッドな彫刻を発表してきたピッチニーニは、本展で40以上の作品を展示しており、科学技術の発展に伴う生命倫理や、気候変動の問題、種族を超えた親密な関係などに対峙している。
また、1月24日まで開催中の第59回ヴェネチア・ビエンナーレ・シンガポール館の帰国展「Pulp III: A Short Biography of the
Banished Book」では、シンガポール人アーティストShubigi Raoの映像作品《Talking
Leaves》が毎日上映されており、個人の告白やドキュメンタリー、神話詩などを通してアーカイブや図書館を救う活動の最前線にいる人々の物語を浮き彫りにし、本の破壊の歴史と知識の未来への影響を探求している。これらの展覧会もあわせてチェックしてほしい。