早逝の天才画家、エゴン・シーレ 時を超え、多くの人の心揺さぶる理由を追う〈AERA〉
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今にも皮肉を口にしそうな自画像、木々を揺らす不吉な風音が聞こえてくるような風景画、不自然に目を見開いた肖像画──。絵の前に立った人の気持ちを妙にザワザワさせる作品が並ぶ。東京・上野の東京都美術館で開かれている展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」だ。
実はバブルの足音が聞こえ始めた1980年代後半、自分が社会人になって初めて行かされた“現場”も、展示作業中だったエゴン・シーレの展覧会だった。そのとげとげしい作品に、アートは美しいもの、心安まるものという小娘の思い込みはあっさり打ち砕かれ、以来、シーレのザワザワに心乱されたいと、何度も何度も画集を開いた。
■約30年ぶりの大展覧会
その後91~92年には、東京などで大規模なシーレ展が開かれたが、今回はそれ以来、約30年ぶりの大規模展覧会となる。シーレは28歳の若さで亡くなった早逝(そうせい)の画家。活動した10年少しの間に、デッサンなども含めると3千点近い作品を残している。今回は多くの代表作を含む約50点の作品が紹介されている。
会場を歩いて思ったのは、死後100年以上を経た今もシーレ作品のオーラがまったく色あせていないことだ。今なお100年前の画家に心が揺さぶられるのはなぜなのか。その前に、まずはシーレの生涯をおさらいしておこう。
エゴン・シーレは1890年生まれ。その才能から、16歳でウィーン美術アカデミーに学年最年少の特別扱いで入学するが、古めかしい教育になじめず退学。先輩で画家のグスタフ・クリムトに天才ぶりを認められ、金箔(きんぱく)を使ってきらびやかな愛と官能を表現したクリムト作品に大きな影響を受けたほか、画商を紹介してもらうなどの経済的サポートも受けていたという。