おいしくて美しい“和菓子”10選・名店の定番菓子。
創業約400年、室町時代後期に誕生し、変わらぬ輝きを放ち続ける老舗〈とらや〉。店の代名詞とされる羊羹の中でも、赤坂店でしか買えない商品がある。それが虎斑(とらふ)柄の特製羊羹「千里の風」。言わずもがな、屋号の「虎」にちなんだ知る人ぞ知る定番だ。
平成6(1994)年に社内コンテストから誕生し、当初は意匠の複雑さから「実現は無理」とされていたが、手練れの職人が試行錯誤のすえ新たな技法を生み出し、商品化に至ったのだとか。黄と黒の虎斑模様を意匠化した躍動感あふれる美しさは〈とらや〉の技術と表現力を物語る。
「一日に千里往って千里還る」と言われるように、虎は勇壮で神秘的な気高さを持つ存在。白小豆、手亡豆、福白金時とで作る黄色の地に小豆のこし餡の虎斑が踊り、虎が風を切って走る姿がみごとに再現されている。
虎斑の模様を作る工程はすべて職人の手仕事であり、練り上がったばかりの羊羹を、黄、黒ともにジョウゴで金枠に流し込んで作られる。ねっとりときめ細かな質感からも、老舗が誇る羊羹の味わいを堪能できる。寅年の今年にこそ贈りたい、特別な羊羹だ。
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創業は明治36(1903)年、かつて駒込千駄木町(現在の向丘)の住人だった文豪・夏目漱石が通ったことでも知られる文京区の和菓子司〈一炉庵〉。一つ一つ丹念に炊き上げられる餡をはじめ、そのほかの材料も既製品などは使わず、保存料も不使用。四代目当主・池田功さんの季節を貴ぶ思いから、生菓子が7割を占め、年間で登場する上生菓子は実に400種類にも及ぶ。定番商品も豊富で、小豆や黒糖、抹茶、白小豆などの羊羹のほか、最中やどら焼きと、手みやげ選びに困ることがない。
初夏の声を聞くとショーケースに登場するのが、寒天を使った涼やかな半生菓子。艶干し錦玉や琥珀菓子とも呼ばれ、夏季の定番として30年以上愛されているのが「さざれ石」だ。透き通る錦玉羹の中に蜜漬けした大粒の丹波大納言小豆が潜む涼やかさ。寒天越しに輝きを放つ大納言小豆は、まさにせせらぎで洗われるさざれ石のよう。もう一品、丸型の「さざ波」は贅沢なこし餡。両者とも、上部にシャリシャリとしたすり蜜のお化粧が施され、まるで薄氷の張った水面を眺めるような情緒を生んでいる。
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