深層リポート 茨城発 求む! 助っ人講師 大幅不足で教員免許所持者を掘り起こし
■若手教員が増加
県水戸生涯学習センター(水戸市)などで1、2月に開催された「茨城県教員再チャレンジ研修会」。県教委は計2回で60人程度の参加を見込んでいたが、予想を上回る申し込みを受け、より大きな会場を準備した。計100人が学校教育の現状や待遇などの説明に耳を傾けた。
研修会を開催したのは、県内の教育現場で講師不足が顕在化しているためだ。
定年退職者の補充や特別支援学級の増設などに対応しようと、県教委は最近10年間で平均約900人、令和2年度から4年度は1千人以上の教員を毎年採用。年度途中で産休や育休を取る若手が増え、代役を務める講師の数が追い付かなくなっている。
県教育庁教育改革課によると、昨年5月時点で足りない県内の講師数は小中高と特別支援学校で計115人。特に小学校(48人)と中学校(46人)で不足が目立つ。講師が見つからない場合、「その学校内で(人員を)やり繰りしてもらう」(同課)と現場にしわ寄せが及ぶことになる。
■下がったハードル
平成以降の県教員採用試験で最高倍率は、平成11年度の11・88。こうした〝狭き門〟に挑む当時の受験者には「落ちても講師をしながら次の試験に挑む人がある程度いた」(同課)が、倍率が3・78(令和5年度)と落ち着く最近は不合格で民間会社へ流れる人材も多いとみられる。
さらに平成21年から導入された教員免許に10年の有効期限を設ける「教員免許更新制」も壁となった。就職時に教職に就かなかったり、いったん教職から退いたりした人は所持する免許の期限が切れるとすぐには講師登録ができず、自費で大学などの講習を受ける必要があった。
だが、昨年7月に免許更新制が廃止されると、「ハードルが下がった」と県教委は判断。教員免許所持者を対象とした研修会を企画した。
■喜びのある仕事
参加者は約7割が女性で、40~50代が中心。職種では会社員と、パート・アルバイトが3割ずつを占めた。「教員になりたくてもなれなかった人たちが申し込んでくれたのではないか」と担当者はみる。
壇上で教職の魅力を説明したのは、行方市立麻生小の教務主任、工藤寛之さん(49)。大学卒業後、製薬会社にMR(医薬情報担当者)として3年勤めたが、「教壇に立つ夢を捨てられず」、26歳で県立高の講師になった。
中学の採用試験を毎年受け続け、8年目に合格。中学に勤務しながら小学校の教員免許も取り昨春、麻生小に異動した。工藤さんは「社会人経験は必ず教職にも生かせる」と力説する。
参加者のうち、これまで11人が講師として登録し、うち2人が県立高などで勤務を始めた。「熱意を持てば、子供たちは応えてくれる。つらいこともあると思うが、きっとその先には喜びがある」と工藤さんは後輩にエールを送る。
教員免許更新制 小中高校などの教員に10年ごとの講習を義務付け、受講しないと教員免許が失効する制度。第1次安倍政権だった平成19年の法改正により、21年から導入された。教員に必要な資質の確保が主な目的だったが、期限が切れる前の2年間に30時間以上の講習を受ける必要があるため教員の多忙化につながり、人材確保に影響するといった批判もあり、文部科学省が「発展的解消」という表現で昨年7月の廃止を決めた。
記者の独り言 産経新聞に中途入社したのは、35年前のちょうど今ごろ。地方紙からの移籍だったが、同期の前職はメーカーや生保勤務、予備校講師などさまざまで、みんなが「本当は新聞記者になりたかった」と口をそろえ、少し感動を覚えた。今回の講師登録者にも他の職種で働きながら教壇に立つ夢を見続けた人がいたに違いない。「まだ間に合うよ」と思わず応援したくなる。(三浦馨)