美術監督・種田陽平によるストーリーのあるショップ作り。
国内外の映像美術界で、その作家性に富んだ空間づくりに定評のある美術監督の種田陽平。今回新たに手がけたのは、先月開業した〈PORTER CLASSIC 銀座〉。長年制作を共にする東宝映像美術チームと完成させたこの店のテーマは“旅する帆船”だ。
「京都で是枝裕和監督と『舞妓さんちのまかないさん』の撮影をしていた際、代表の玲雄さん(𠮷田玲雄)が祇園のセットを見にいらして、相談を受けました。今まで映像が中心だった僕は、何か設定やストーリーがある方がイマジネーションが湧く。すると玲雄さんが、ヨーロッパを船で旅する克さん(𠮷田克幸会長)の映像を見せてくれて。それが始まりでした」
店舗を船に見立てる。その発想はある意味必然だったという。
「空間づくりの制約になるものこそ、ある種の物語性を引き出す要素となります。例えばこの店舗は高速道路下にあって、車が通過するとガタガタ振動が伝わる。初めて体感したその振動に“これが旅をする船の中で感じるものだったらいいだろうな”と思いました。そうなると、あまり高さがない天井も活かせる。さらに空間の抜けを作るために天井に空を描こうという発想にも。このように船旅という一つのストーリーの中に風景を積み重ねていく作業は、映画のセットを普段手がける時に行っていることでもあるんです」
そうして約100平米の店内は、“船室” がモチーフのエリアやお針子たちのアトリエ、プライベートシアターなどが、中央にあるデッキを囲む、二つとない空間に。
「セットを作る時はストーリーに加え、登場人物からも想像を膨らませていくのが基本です。その意味では今回の主役は人物でなく、デッキのエリアに並ぶ〈PORTER CLASSIC〉の商品たち。空間の中で浮き立つように、ブルーグレーに見える壁紙には色相の異なる4種類の青色を採用。また、どの角度から見ても世界観が変わらぬよう、色温度や明るさなどは僕の方で最終調節をしました」