有識者が選ぶ2022年の展覧会ベスト3:中島水緒(美術批評家)
「手前の崖のバンプール」(東京湾/5月28日~29日)
東京湾一帯を舞台に2日間のみ開催された「物流型展覧会」。アーティストの藤倉麻子による主催。参加者は「貨物」と称される小さな木材を持って小型船に乗り込み、ダンサー・Aokidの機微に富んだ「ガイダンス」に手引きされながら東京湾の物流拠点を巡る。プロジェクトメンバーの技能とリサーチの成果がそれぞれの専門領域をまたいで化学反応を起こした好企画であり、通常の展覧会の形式を刷新する諸設定、ランドアート的なスケール感、不可視の物流ネットワークに漸近するコンセプトには、屋外に飛び出てオルタナティブなルートを開拓せんとする冒険心を感じた。「物流型展覧会」とは前代未聞だが、同展が「イベント」でなく「展覧会」と銘打った意義はおそらく大きい。
「メディウムとディメンション:Liminal」(柿の木荘/9月3日~27日)
美術評論家・中尾拓哉のキュレーションによるグループ・ショー。会場となるのは、かつては賃貸アパート、近年はアーティスト・イン・レジデンスの施設として使用されていた築56年の木造アパート・柿の木荘。その柿の木荘が新たな建物に生まれ変わる移行期の段階(改修前/間取り改修後)に、11名と1組のアーティストが作品をインストールする。個々の作品の完成度もさることながら、時空間の多層性を引き出す全体の展示の巧さが際立っており、展覧会のコンセプトを説得力あるものへと仕上げていた。展覧会、とりわけインスタレーションの類は基本的に一過性の消え物だが、Liminal展はやがて訪れる物件・物質の変化をあらかじめ抱き込むアクロバティックな展覧会だったのではないか。展覧会自体がうつろう光と影のように現象的、という不思議な様相は記憶のなかでいつまでも尾を引く。
高嶋晋一+中川周「経験不問」(スプラウト・キュレーション/9月3日~10月2日)
映像作品を制作する2人組ユニットの3年ぶりの個展。これまでもカメラそれ自体が孕む運動性を前景化させた脱主体的な映像作品を手掛けてきた彼らだが、同展では比較的短い尺によるサイレントの映像作品3点のみがモニターで上映されていた。地面を疾走するカメラは、石、砂粒、土埃などが流体あるいは光の網のように変化するさまを延々と映し出す。そして間歇的に挿入される静止画像。映像による映像の自己破壊といった手合いで、いつまでも観続けてしまう中毒性があった。しかし、これを「今年良かった展覧会」と言い切るのは難しい。モニターに映像を流すだけのシンプルな展示方法は目新しさやインスタレーションとしての特異性を示すわけではないからだ。おそらく作家たちにとって展覧会という形式への落とし込みはあくまでひとつの通過点なのだろう。そもそも、ここでの実験が「作品」の概念に収まりきるものかどうかすら、見る側にとってもよくわからないのだ。まずは画面上で生起する現象を見よ。終わりなき思弁に誘う映像体験は、年明けに予定されているgallery
αMでの個展でも目撃できるはずである。