古今東西 かしゆか商店【ジャカード生地の傘】
昔から傘が好き。今もお気に入りの1本を10年以上使い続けています。森が多くて湿度の高い日本は、雨の景色が美しい国。傘を差す姿が似合う気がします。
今回訪ねたのは山梨県西桂の〈槇田商店〉。富士山の雪解け水で染めた糸で生地を織り、手仕事で傘を仕立てている会社です。絹織物の卸問屋として幕末に創業し、旦那衆の羽織の裏地なども織っていましたが、洋装の需要が増えるのに合わせ、傘生地を中心にした織物工場に転身したそうです。
「糸を染めてから織る “先染め” のジャカード織がウチの特徴。何色もの糸を織ってデザインを表すことで色柄に立体感が出るんです」
と話すのは代表取締役の槇田洋一さん。「織る」からこそ、プリントにはない奥行きや陰影が出て、表情が豊かになるんですね。
織り上がった生地は丁寧に裁断し、縫い合わせ、傘の骨に張る。すべて手作業です。たとえば裁断。生地の表を内側にして二つ折りにしたら、二等辺三角形の定規のような型をあてて革切り包丁をすべらせます。しっかりした生地がススーッと音もなく切れるのは、1日に何度も包丁を研ぐから。
「生地の硬さもさまざまですし、傘の種類によって切るべき形も異なる。機械よりも手の方が微妙な調整が利いて正確です」
と職人さん。また、その生地を縫い合わせる工程で使われるのは、上糸だけで縫う珍しいミシン。普通のミシンは上糸と下糸を絡ませて縫いますが、上糸だけだと縫い目が鎖状になって伸び縮みします。傘を開いた時、カーブした金属の骨にきちんと沿うんです。こうして縫製した生地を、蝋引きした糸で骨に縫い付けたところで登場したのはなんとアイロン。開いた傘の裏側にアイロンをあてると、生地に張りが出てシャンとしました。