東京都庭園美術館が恒例の建物公開展。旧朝香宮邸の建物に纏わる記憶と向き合う
宮内省内匠寮が設計し、主要な部屋の内装をフランスの室内装飾家アンリ・ラパンが担当した東京都庭園美術館の本館(旧朝香宮邸)。本展では、ラパンに加え、アール・デコ期を代表する作家であるルネ・ラリックやレイモン・シュブらの作品も採用されたアール・デコの空間を味わいながら、かつてこの空間を往来した人々が残した写真や映像資料、工芸品、調度品、衣装などを通じ、当時の生活の一端を垣間見ることができる。
展覧会では、修復したオリジナル家具や同時代の美術品、かつての邸宅の実際の写真などが展示。同館所蔵の朝香宮家伝来品に加え、国内各地に所蔵されており、本展のために里帰りしてきた衣装、工芸、調度など稀有な作品をまとめて堪能できる貴重な機会だ。
また、アール・デコ建物を特徴づける素材やディテールを実際に触れるコーナーも設けられており、同館の特徴的な建物の魅力を存分に味わうことができる。さらに、通常非公開の本館3階「ウィンターガーデン」も、2019年の建物公開展以来初めて公開されている。温室として設えられたこのスペースでは、白と黒の市松模様の床に朝香宮が購入したマルセル・ブロイヤーの椅子が置かれており、モダンな雰囲気が漂う空間だ。
いっぽうの新館では、朝香宮家の第一王女(長女)である紀久子女王が両親である鳩彦王と子妃夫妻の形見として受け継いだ品々や、降嫁先の鍋島侯爵家で守り続けてきた伝来品などが紹介されており、天皇家や皇族・華族家との交流の物語に迫る。
また、ヨーロッパでは小型菓子器として用いられ、明治時代には日本の皇室・宮家で慶事の際の引出物として取り入れられたボンボニエール300点以上も並んでいる。動物や乗物、そして戦争中という時代を反映した戦闘機などをモチーフにした数々のボンボニエールを通じ、日本の伝統工芸の精緻な技術を楽しむことができる。
なお、今年10月に開館40周年という節目を迎える同館は特設ホームページも開設。記念ロゴの公開や、プロジェクションマッピング(4月8日、9日)など特別イベントの開催告知など、多様な取り組みを発信していく。節目の年を機に、同館の美しいアール・デコ様式の建物と、そこに纏わる記憶と向き合ってみてはいかがだろうか。