富山に風土とアートを愛でる宿〈楽土庵〉が誕生。
一面に広がる水田風景の中に、ぽつりぽつりと点在する民家。日本の多くの集落は家々が密集して建つ「集村」であるのに対し、富山の砺波(となみ)平野は広大な耕地の中に家々が散らばる「散居村」だ。日本三大散居村のひとつに数えられ、中でも砺波平野は規模が大きいことで知られている。
2022年10月にオープンする〈楽土庵〉は、この美しい風景と土地の文化を伝える宿だ。三方を水田に囲まれた「アズマダチ」と呼ばれる、富山の伝統的な民家を再生。客室は3室あり、土、木、和紙、絹といった自然素材を用いながら、モダンな改修がなされている。
客室やロビーに配されているのは、時代も国も異なる家具やアートだ。ピエール・ジャンヌレやハンス J.ウェグナーの家具、飛騨の調箪笥、芹沢銈介や濱田庄司らの民藝の品から、内藤礼の現代アートまで、多様な美が調和している。
かつて富山を訪れた柳宗悦は「ここには土徳がある」と表現したと言われている。
「土徳」とは、人が自然と共に作り上げてきた、その土地が醸し出す品格のようなもの。美しい田園風景の中で、自然の厳しさや豊かさを受け止めながら生きる人々を目にして、宗悦はそう言い表したのだろう。
〈楽土庵〉は積極的に地域再生を進める宿でもある。
併設するレストラン〈イルクリマ〉で味わえるのは、土地の食材をふんだんに使ったイタリアン。食を通して地域の農業や漁業を後押ししている。ほかにも、散策しながら歴史や文化を学べる「散居村ウォーク」や、富山の茶文化を伝える「茶道お稽古」といったアクティビティを企画。さらに宿泊料金の2%を散居村保全活動の基金に当てるなど、泊まることでゲストも地域再生に貢献できる。