G7広島サミットで平山郁夫の絵は何を意味したか? 作品メッセージの意外な宛先は(文:永瀬恭一)
2023年5月20日、Twitterのタイムラインに流れてきた画像を見て、私は驚いた。問題の場面は5月19日、G7広島サミット参加の各国首脳が広島平和記念資料館東館を訪れた際、記帳をした様子を写したものである。
広島、そして長崎に原爆を投下した当事国のアメリカ大統領、そして核保有国のイギリス、フランスの首脳が、第二次大戦で敵対した日本、ドイツ、イタリアの首脳と、原爆の資料館で横一列になっている光景は確かにインパクトがある。だが、背後に掲げられた絵と画家について、ピンときた人はいるだろうか?
注目を集めたこの場面で見逃されているラクダの絵──《平和のキャラバン(東)太陽》(1985)──について、今回は考えたい。作品のメッセージの意外な宛先が浮かび上がるからだ。
正確には、背後にあるのは「絵」ではない。元絵から陶板に移されたもので、絵の中に走る縦横の線は、この絵がタイルであることの証拠である。元の絵を書いたのは平山郁夫(1930~2009)、戦後日本画壇に長く君臨した人だ。元東京藝術大学学長、元日本美術院理事長ほか顕職多数。広島出身で被爆者でもあるので、この場所に平山の絵があるのは不思議ではない。
画壇で偉かっただけではなく、平山は一般にも広く知られていた。NHKが1980年から1年にわたって放送したテレビ番組『シルクロード』は人気を博し、日本でシルクロード・ブームが起きた。それに先駆けてシルクロードを主題に制作していた平山は、テレビや新聞といったマスメディアに繰り返し登場し、ネットが存在しなかった日本で有名文化人となる。当時、都心のデパートに行くと平山の作品が普通に並んでいた。
ことに砂漠を行くラクダは平山が繰り返し描いた画題だ。その絵を見た日本人は、一定の範囲で「平山郁夫」を思い出すことができたのである。そして、メディア上の有名人によくあるように、本人が2009年故人となりメディアに出なくなると、忘れられた。
専門家はどうか。平山は、生前から本人周辺の日本画壇以外の人々からは、必ずしも重視されなかった。画壇での高い地位から平山の作品は政財界でも流通するような状況があり、価格が釣り上がることに批判的な視線が向けられたことも、この評価の分裂に拍車をかけた。
これ以上、平山の人物像を記述する気が私にはない。私にとって平山の絵画、たとえば今回の作品《平和のキャラバン》は「たいくつ」だ。ではこの「たいくつ」さはどこから来るのか。