『となりのトトロ』のバスの行先「八国山」はどんな森?
JR中央線を西に走り、立川駅から青梅線に入ると南面にはそれまでとは違って緑をまとった丘陵が近くに現れてくる。
この丘陵は関東山地と武蔵野台地をつなぐ位置にある。多摩川を挟んで東には加治丘陵、狭山丘陵が位置し、西には平井川の北に草花丘陵、秋川と浅川のあいだに加住丘陵、さらにその南に高尾山から東に延びる多摩丘陵が広がる。立川駅から見えるのはもっとも南の多摩丘陵の山並みである。
この丘陵地域は今では「里山」と呼ばれることが多い。人びとは低地(谷津)に湧水を利用して水田を開き、住居は日当たりのよい南側の斜面の下部に設け、周囲に畑を作った。その裏の斜面には尾根にアカマツ、斜面にはコナラ、ヒノキ、谷にはスギが植えられた「山」を配した。
この里山地域は、長い年月の人びとの生活の積み重ねによって、安定した自然が作られてきた空間であり、武蔵野台地では見られない景観を保ってきた。
人が手を加える以前の丘陵にはどのような自然の森が広がっていたのだろうか。東京では海岸地域から標高約600メートル前後までは常緑広葉樹の広がる森林(照葉樹林)が広がっていたと推定されている。そこに生活した人びとは、その森を切り開き、生活の資源を得る落葉樹の空間へと変えてきた。
それを示すように、代表的な森林である常緑広葉樹林の優占種であるスダジイ林は多摩丘陵の各地にその断片が見られるし、その林が伐採された後に成立した、利用価値の高い落葉樹のコナラ、クヌギの雑木林は広い地域にみられる。しかし、その雑木林は放置すると、自然の力で、また昔の常緑広葉樹林へ戻ることになる。コナラやクヌギの高木の下にシラカシをはじめとする多くの常緑樹が生育する林を見かけるのはその自然回帰の一断面である。
丘陵部では、低海抜地や武蔵野台地では見られず、奥多摩と共通する植物種が多く生育することに特徴がある。アカシデ、リョウブ、カマツカ、オトコヨウゾメ、コウヤボウキ、ヤマツツジ、コアジサイ、カシワバハグマ、キッコウハグマ、チゴユリなどの落葉性の樹木や低木と草本である。また、本来この地域に分布していた常緑広葉樹林のなかに生育していた常緑樹種のウラジロガシ、アラカシ、ヒイラギ、アセビなども丘陵地域に特徴的な種で、武蔵野台地にはなかなか見られない種である。