杉本博司が導かれた春日信仰の神道美術を、金沢文庫へ見に行こう。
杉本が手に入れた神道美術品の中でもとりわけ重要かつ大型なのが平安時代の《十一面観音立像》だ。
仏教の和様化が進み、日本古来の霊木信仰とも結びつき、さらに仏教の諸尊が本地となって神の姿となって現れたのだと考える「本地垂迹(ほんじすいじゃく)思想」が生まれた。杉本はこの観音像の頭頂の、本来あるはずの目や鼻のない面々を眺めているうちに、これは霊木に神像を彫り進めるうちに十一面観音が降臨し、次第にその姿を現す途中なのだと気がついたのだという。自身の念持仏(個人が毎日の礼拝のために所有する仏像)として毎日眺めて暮らしてきたというこの像も、杉本の美術作品である五輪塔とともに1階に展示されている。
杉本の長年にわたる春日古物との不思議な結びつきは、春日神が鹿の背に乗って東国から大和へとわたる途中、きっと江之浦あたりを通過したに違いないという確信的なイメージを呼び、自身の作品である〈小田原文化財団 江之浦測候所〉内に春日社殿を新築するまでになった。本展覧会後には正式に春日大社から御霊分けが行われる予定だという。
杉本による収集品を導入としながら、東国と奈良を結ぶ神の旅路を、各所から集められた貴重な神道古美術品でたどる異色の展覧会だ。