日本固有種で文化の一部なのに日本人にほぼ忘れられた柑橘類
この繊細で小さい柑橘類は、橘だ。2種しかない日本原産の柑橘類のひとつであり(もう1種は沖縄のシークヮーサー)、そしてものすごく珍しい。
環境省によって公式に絶滅危惧種に指定されている橘は、日本の至るところにありながら、ほぼ知られていないという、なんとも奇妙な立場にある。
大半の日本人が日常的に目にしているのが、500円玉に刻まれている橘だ。3月の桃の節句で飾られる雛壇にも橘の木のミニチュアが入っている。家紋や、日本の文化に大いに貢献した人に授与される、名誉ある文化勲章の模様にもなっている。
にもかかわらず、橘の木1本を見つけ出すのは、一見さんお断りのレストランで予約を取りつけようとするようなものなのだ。自分が何を探しているのか、誰に聞くかをわきまえていなければならない。
大半の人は、実物の橘を見たこともなければ、ましてや味わったこともない。柑橘エキスパートの広井亜香里によれば、日本人の多くは橘が柑橘類であることにすら気づいていないという。
「柑橘ソムリエ愛媛」のソムリエライセンス講座で使う教科書を書いた広井は言う。
「橘を見たことはありますが、決まって観賞用です。たいていは、そのまま食べる果物というより、花として出会うので、ただの植物と思われがちです」