21世紀国際書展特別大賞 「太い線」貫いたこだわり グランプリ 友野美豊さん(58)
証券会社のOLだった20代のとき、鎌倉市の古刹(こさつ)、建長寺で毎週日曜日に開かれている座禅会に足を運んだ。勧めてくれたのは、所属する國藝書道院の齋藤香坡会長だった。恩義は尽きない。書道は、心の内面を表出する芸術とも評される。なおのことだ。
この書道院の発行する月刊誌に初めて掲載された作品には、「太陽」という文字をしたためた。小学6年生のころだと記憶している。「筆力は抜群」と褒められていた選評の一文が今でも脳裏に焼き付いている。「うれしかったですよ」。そう振り返り、口元を緩ませる。
小学生、中学生、高校生へ進級するのに伴い、手がける書体も楷書から行書へ、そして草書へと移っていく。「うまくなりたい」。書の魅力にはまり情熱を傾けていたとはいえ、残念ながらまだ半人前という自覚が消えない限り、乗り越えていくしかなかった。「もっと、もっと、もっと」。自分を鼓舞し、目指した高みに走り続けた。
受賞作は、中国・唐代の政治のありようが詠(うた)われていて、この時代に生きた詩人であり画家でもあった王維の作とした。3行にまとめられていたお手本を手にしたとき、まず頭をよぎったのは「自分には難しい」との焦りだった。
余白が多くならないか、文字の大小のバランスをどうするか、筆に浸す墨の量はどんなあんばいにするか、文字をどう崩すか…。不安は尽きなかった。でも制作し終えた作品からは、美的な工夫を巧妙に仕掛けて克服した味わいが見て取れる。
貫いたこだわりは、「しっかりと『太い線』を書くこと」だった。書道院の門をたたいてから、齋藤氏に言われ続けてきた教えなだけに、ゆるがせにはできない。そのかいあって、筆太のリンリンとした筆致が表現でき、細い線との異なりが鮮明になった。力強くて重厚、それでいて躍動感のある作品に仕上がっている。
筆の穂先に「もっと」という、断固たる気持ちを込めて自らと筆とを一体化し、無心になって文字をしたためる。一筆、一筆を丁寧に細やかに。この作品にしかない世界観がひとりでに紙に宿った。
最近になって、筆と墨と紙だけで無限に広がる書の魅力を多くの人に伝えたいと思い始め、その手立ての一つとして、写経に勤しむようになった。「何も考えないで夢中になれるのが好き」。のみならず、関心を寄せるご近所の主婦らにも、ボランティアで手ほどきをしている。このうえなく心地の良いひとときである。(松本浩史)
■ともの・びほう 昭和39年6月29日生まれ。横浜市栄区出身。書道はもとより、週1~2回、自宅近くの仲間とテニスに興じる。手芸もたしなむ。2人の娘はすでに嫁いでおり、今はご主人と暮らしている。受賞の報に接した際は、「よかったね」と祝福の言葉を贈ってくれた。とても心に染みた。21世紀国際書展の文部科学大臣賞第1部門(漢字)などの受賞歴がある。
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「第38回21世紀国際書展」(主催・産経新聞社、21世紀国際書会)の授賞式を前に、特別大賞に選ばれた4人の横顔を紹介する。